レギュレーターの突入電流対策について

(ラッシュカレント対策)


※現在パワーMOS-FETを使用した低オン抵抗の突入電流制御リミッターのキットを製作中です。少々お待ちを。 →こちらでやります

※小電流用の電流リミッターを搭載したディスクリートレギュレーターをつくりました。 →こちら

※5A程度までの消費電流に対応できる過電流保護機能付きのレギュレーターマザーボードつくりました。 →こちら

アリス  「今日は定電圧レギュレーターの突入電流対策について改めてまとめてみたいと思います。」

みみずく 「電源回路の設計をする際に初歩的な注意事項のひとつになる。
      しかしだからこそ、初心者にとっては最初の壁と言ってもよい。」

アリス  「最初の壁というワリには危険性は高いですよね?」

みみずく 「そうだな。これを知らないで適当につくると初火入れ一発目で電源回路がお釈迦になって
      “なんで動かないんだろう”と途方に暮れる羽目になるかもしれない。
      運が悪ければ機材が破損することだってある。」

アリス  「ラッシュカレント対策は回路設計の重要な常識のひとつですが、
      独学で自作を始めて間もない人には考え方がわからないかもしれません。
      というわけで、ここでまとめてみたいと思います。」

 

アリス  「さて、ここでは一般的なシリーズレギュレーターについて考えます。
      Regシリーズや三端子レギュレーターもシリーズレギュレーターです。」

アリス  「入力のVinをレギュレーターで制御してVoutとして出力しています。」

みみずく 「特に電源を入れた直後に流れる突入電流をインラッシュカレントという。
       インラッシュカレントは主にCoutに初期チャージが行われるために発生する。」

みみずく 「Vinの立ち上がりもVoutの立ち上がりもとても速かったとしよう。
      CoutのESR(等価直列抵抗)をResrとするとどうなるかな?」

アリス  「電源ON直後の突入電流をIrushとして次のようになります。」

      Irush = Vout / Resr

アリス  「仮に Vout = 10V 、 Resr = 100mΩ とすると次のようになります。」

      Irush = 10(V) / 0.1(Ω) = 100(A)

みみずく 「これは瞬間最大値だし、実際にはVinの立ち上がりにもある程度の時間はかかるから、100Aも流れることはない。
      しかし、それでもレギュレーターの出力トランジスターを破壊するには充分なインパクトがある。
      超低ESRのコンデンサーだとESRはもっとずっと低くなるのでさらに危険性は増す。」

アリス  「できればコンデンサーはESRの低いのを使いたいです。」

みみずく 「それに、出力トランジスターはできるだけ電流容量の小さいものを使ったほうが性能が良く、もちろん音も良い。
      そうすると、ますます突入電流の対策が必要になるわけだ。」

アリス  「突入電流を避けるにはVoutの立ち上がりをゆっくりにすることが有効です。」

みみずく 「ここでも説明したけど、それには電流制限抵抗を使うのが有効。
      他にはレギュレーターをスロースタートにしたり電流リミッターを使うのが特に大電流では有効だけど、
      少なくとも回路の振る舞いや計算のやり方が理解できてからにしたほうがいい。」

アリス  「電流制限抵抗Rinによって、仮に Resr = 0Ω だとしても

      最大突入電流 = Vin / Rin

      に制限されるわけですね。仮に Vin = 20V 、 Rin=10Ω とすると

      最大突入電流 = Vin / Rin = 20(V) / 10(Ω) = 2(A)

      となり、突入電流が大幅に緩和されることがわかります。
      これで無駄に大きなトランジスターを使わなくて済みます。

      この機能はC3BLDMに使うことができます。」

みみずく 「これは極めて安全確実な方法でもある。デカップリングが強まることも大きなメリット。
      まずはこの方法をマスターすることが大事。

      ところで、実際にはそこまで電流制限抵抗の抵抗値を大きくする必要はない場合も多い。
      トランスの内部抵抗なども利用できる。
      それに電流制限抵抗を大きくすると大電流では電力の無駄が多すぎる。

      というわけで、以下は独学の参考に。

      下の図で  はコンデンサーのESRと電流制限抵抗の抵抗値などを足し合わせた数値で E は起電力だ。」

みみずく 「この回路の出力電圧 V(t) は時間とともに次のように変化する。」

アリス  「あ、難しそうな数式が…!」

みみずく 「まぁ、詳しくは各自勉強してもらうとして、 はネイピア数と呼ばれる定数、
      そして C×R のことを特に時定数(物理単位の次元が時間と同じになる)と呼ぶことは覚えておいたほうがいいね。
      この時定数が示す時間(グラフではCR比100%の時間)で最終到達電圧(E)の約63.2%の電圧に達する。

      上のグラフのV(t)はコンデンサーに蓄積された電気量(電荷)と相関がある。
      つまりコンデンサーに流れ込む電流の時間総和である積分値に相関がある。
      ダイレクトに結論をいうとV(t)の微分値(グラフの傾き)とコンデンサーの静電容量Cの乗数が突入電流の時間関数I(t)になる。

         I(t) = C * { V(t)の時間微分値 } : V(t)の時間微分値の物理単位は(v/s) で1秒あたりの電圧立上がり速度を意味する


      これは、まぁ、簡単に言うと上のグラフを上下ひっくり返したようなグラフになる。」

アリス  「ほえっ?いったい何を言っているのか…」

みみずく 「そうだな、試しに文章で書いてみたが式を立てないとさっぱりわからないな。」

 

    (式を立ててざっと説明 テキストだと式がわかりずらいですね)

       コンデンサーの電気量 : Q (クーロン)
       コンデンサーの静電容量 : C (ファラッド)

       まず、コンデンサーの基本的性質としてコンデンサーの両端電圧をVとして

       Q=CV である。

       電流 I(t) とは、電気量(電荷)の時間あたりの移動量そのものである。つまり Q の時間微分である。

       I(t) = dQ/dt = C・dV/dt

       Vに先のグラフのV(t)を代入し時間微分すると計算できる。

       とりあえず大事な結論をまとめる。

 

       

 

       

       ネイピア数 : e = 2.71828 18284 59045 23536 02874 71352 …

       t=時定数CRのとき e^-1 = 0.3678794412… = 約36.8% (100%との差分は約63.2%

       であり、V(t)=E × 約63.2% 、 I(t)=(E/R) × 約36.8% となる。

 

みみずく 「t=0 の時に I(t)=E/R となり、これが最大突入電流になるということで電流制限抵抗の根拠にもなっている。

      ところで、以上をふまえたうえでもう一度回路図を見てみよう。」

みみずく 「この図からもわかるようにCinを大きくするとRinをあまり大きくしなくても大きな時定数を稼ぐことができるので
      Voutもゆっくりと立ち上がることになる。Rinには大電流が流れるからワッテージの大きなものがよい。
      これはとても実用的な方法だね。

      そうやって最終的にレギュレーターの出力トランジスターに流れる電流が絶対定格を超えないようにするわけだ。
      もちろん、必要に応じて大きなトランジスターに替えることも考慮したほうがいい。
      発熱(コレクター損失)の問題も忘れてはならない。」

アリス  「えーっと、実際に突入電流を見極めるためには計算も必要ですが、
      データロガーやストレージオシロスコープなどで実測しながら調整することが望ましいでしょう。」



 

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