@リニアレギュレーターを何のために使うのか?
スイッチング電源とリニア電源の優位点はそれぞれに異なっており、単純な優劣の比較はできませんが、少なくとも、オーディオ用途など特定の目的にあわせてチューニングを施したカスタム電源をつくるという目的には、リニア電源は大変向いている電源方式であると言えるでしょう。
日々進化してきた昨今のスイッチング電源は厳しい基準を満たせるように設計されているものも多く、そのほとんどは決して粗末なものではありません。しかしながらオーディオ用途として音質を優先してつくられているものはとても少なく、そういった通常のスイッチング電源を採用しているPC、HDD、HUB、DACなどを含むオーディオシステムに、音質を優先してチューニングされたリニア電源を投入すると、その音質改善効果にはとても大きなものがあります。更にこういったこととあわせて、リニア電源が自作家にとって手におえる技術であるということも見逃せない利点です。
今の時代にわざわざコストをかけて高品質なリニア電源システムを構築しようとするのですから、出来れば使いどころを見極めた上でしっかりと良いものに仕上げたいものです。
リニアレギュレーターは優れた長所を持つ電源方式ですが、もちろん万能薬などではなく工学技術の宿命として得手不得手を持ちます。リニアレギュレーターは大電流になるほどコストが急激に増大し、また安全管理に高度な技術が必要になりますので、最初は、ローノイズであることが特に求められるところや、出力電流が数mAから1A程度の小電流回路の電源から優先して取り組むと良いと思います。
我が「宇宙雑貨工房 横濱アリス」では高度なチューニングを可能とするためにローノイズなディスクリート素子を使用したオリジナルのリニアレギュレーターを複数種キット化しています。これらにはディスクリートパーツがふんだんに採用されているので交換による音質のチューニングが容易に可能です。得られる音質変化の幅はとても広いので、チューニングを極めるということは楽なことではありませんが、是非、ふるって高音質の探究というイバラの道にご参加ください。必ずやその道の果てには得も言われぬ美しき絶景が広がっている……ハズです。きっとそのハズ。そう信じましょう。いいんですよ。たとえたどり着けなくて道半ばで倒れても。そう、挑戦することは尊いのです。
A各リニアレギュレーターの特徴
イ.LED.Reg3(れっど
れぎゅ すりー)
10V以上で高音質を求めるならコレ
・ディスクリート素子のみを使用した出力電圧可変のフルディスクリート リニア レギュレーター。
・現在、正電源用の(+)のみキット化。
・音質チューニングの幅が広く、特に情感のある音質を得意とし、それはデジタル回路にも有効です。
・表面実装パーツを使用しないため組み立て易い。
・先代LED.Reg2と比べて出力電圧10V以上の時の性能が向上している。基板の耐圧も向上。
・マザーボードのRM−1pと組み合わせることで過電流制御機構のGaDeK(ガデック)を使用できるので、
最大で10Aの大電流時にも安全性を確保しつつ安定した能力を発揮できる。
・最少出力電圧は1.8V程度ですが、3V以上での使用を奨励します。
・基板耐圧40V〜120V(実用耐圧はパーツによる)
ロ.opeReg(おぺ
れぎゅ)
ローノイズを求めるならコレ
・単回路のオペアンプとディスクリートパーツを使用した出力電圧可変のリニアレギュレーター。
・オペアンプの豊富な種類や情報を活用した幅広いチューニングが可能。
・レギュレーションが非常に良好で、傾向としてローノイズで高解像度な音質を得意とする。デジタル回路にも有効。
・オペアンプの能力によりますが、低電圧出力でも良好な性能を発揮します。
・最少出力電圧は0.6V程度。(オペアンプによる)
・耐圧36V〜50V(パーツによる)
ハ.LED.Reg2(れっど
れぎゅ つー)
高音質で汎用性が高い。レギュレーターの交換改造ならコレ
・ディスクリート素子のみを使用した出力電圧可変のフルディスクリート リニア レギュレーター。
・音質チューニングの幅が広く、特に情感のある音質を得意とし、それはデジタル回路にも有効です。
・過電流制限機構を単独で内蔵しているので安全の確保がしやすい。
・そのため既設の三端子レギュレーター(78xx,79xx)との置き換えがやり易い。
・最少出力電圧は1.5V程度ですが、3V以上での使用を奨励します。
・耐圧40V〜60V(パーツによる)
二・miniReg2(みに
れぎゅ つー)
クセのない音質で、温度安定性も高い。とりあえず試すならコレ
・シャントレギュレーターICのTL431とディスクリートパーツを使用した出力電圧可変のリニアレギュレーター。
・制御モードをNFBモード(負帰還モード)かnon-NFBモード(無帰還モード)に切り替え可能。
・音質は制御モードにより大きく変わる。non-NFBは貴重。
・部品点数が少なく組み立てが容易。表面実装部品も使用しない。
・最少出力電圧はモードにより1.3V〜2.5V。
・耐圧37V(出力が34V以下の場合は、セッティングやパーツによっては入力電圧50V程度まで可)
Bリニアレギュレーターのつなぎかた
リニアレギュレーター(アリスのRegシリーズ)には入力:IN と 出力:OUT と 接地:G の三つの端子があります。正電源用と負電源用で端子配置(ピンアサイン)が微妙に異なり、正電源用は三端子レギュレーターの78xx系と互換配置、同じく負電源用は79xx系と互換配置になっています。
リニアレギュレーターをシステムに組み込む際には次のようにつなぎます。
上図はリニアレギュレーター単体での使用を図示していますが、
実用的にはリニアレギュレーターマザーボードを使うことが多いでしょう。
リニアレギュレーターマザーボードにはRM−1p、RBT−1(+/−)、C3Bなどがあります。
マザーボードについては別項を設けて説明します。
Cリニアレギュレーターの仕様の決めかたについて
リニアレギュレーターの仕様を決定する重要なパラメーターは3つあります。入力電圧、出力電圧、出力電流です。また、その他に絶対定格(または定格とも)と呼ばれる最大耐電圧と最大出力電流があります。最大耐電圧とは単に耐圧とも云いリニアレギュレーター内部で絶縁破壊が起こらないギリギリの電圧値のことです。最大出力電流とはレギュレーターが過電流破壊しないギリギリの出力電流値のことです。
リニアレギュレーターの仕様を決めるのは特に難しいことではありません。リニア電源が電力を供給する対象を負荷と呼びますが、その負荷が具体的に必要としている電圧と消費電流を調べればよいのです。具体的な数値が解からない場合は、直感を働かせて適当に…などとやってはいけません。良い音のためには、きちんと事前調査をしたほうが良いです。その際、ネットで情報を得ることも出来るかもしれませんが、しっかりとした仕様書などが見つから無い場合は、ネットの情報は参考にとどめ、自分で対象を実測して信頼のできるデータを取得することをお勧めします。電源回路を扱ううえで、こういったことの積み重ねは重要な技術になります。テスターがひとつあれば出来るので、是非挑戦してみてください。
電圧について調べるのは稼働中の回路にテスターを当てればよいだけなので簡単ですが、消費電流を調べるのは少々工夫が必要です。具体的には回路の一部に電流測定抵抗を割り込ませて、その両端電圧を測定するという手段になります。
リニアレギュレーターにはドロップ電圧が必要です。ドロップ電圧とは入力電圧と出力電圧の落差の電圧ことです。アリスのRegシリーズに於いては3〜5V程度のドロップ電圧を確保するとよいでしょう。入力電圧はこのことから逆算して決定します。例えば、出力が10Vで入力が15Vというようにです。このようにして入力電圧、出力電圧、出力電流という主な仕様が決まったら、リニアレギュレーターに使う部品の選定ができるようになります。その部品によってリニアレギュレーターの絶対定格が決まります。部品のうち最も低い耐圧を持つものをリニアレギュレーターの耐圧と考えるべきなので、入力電圧以上の充分に余裕のある耐圧のものを選定します。出力電流については次項のパワートランジスターの項で説明します。
ところで、リニアレギュレーターへの入力電圧を正確に決定することは往々にして難しい場合が多いです。特にトランスと整流ダイオードと平滑コンデンサーで構成された非安定直流源から供給される電圧は状況によりかなり変動します。これはトランスの性質に起因する問題で対処には経験が必要なことが多いです。何とも歯切れの悪いことですが、この件はトランスの項目で改めて触れたいと思います。
Dドロップ電圧についての補足説明
リニアレギュレーターにはある程度のドロップ電圧が必要です。ドロップ電圧についてはリニアレギュレーターの性能を引き出すための重要な要素になってくるので、より理解を促すべく説明の補足を行います。
リニアレギュレーターはドロップ電圧を消費することにより出力電圧を安定させています。実験用のリニアレギュレーターを使って実際の様子を観てみましょう。
以下のグラフの上段はレギュレーターへの入力電圧で、下段が出力電圧です。この入力電圧は人為的につくったものなので綺麗な正弦波をしています。
入力のリプル(電圧変動)が除去されて直流が出力されていることがわかります。
さて、ここで入力電圧の測定をしてみましょう。テスターを用意してください。
テスターの測定モードをDCV(直流電圧)にあわせて入力電圧を測定するとDC20Vと測定できました。
次にモードをACV(交流電圧)に切り替えて同様に測定するとこの場合はAC1Vと測定できるはずです。
今回はリプルを模した正弦波ですから波形のピーク高さはAC1Vの√2倍、つまりおよそ1.414Vになります。
そうすると、入力電圧の Hiピーク = 21.42V 、Loピーク
= 18.59V と計算できます。
トランスと整流ダイオードと平滑コンデンサーを使った非安定直流電源からの出力にはリプル電圧が残っていることがあります。多くの場合、残留リプルは正弦波で近似できることにして同様の考え方で上下のピーク電圧を概算することができます。このAC測定をやっていない人は多いと思いますが、これをやらないと重要なデータが得られません。
改めてグラフで見てみましょう。
どうですか?何となくイメージできました?
テスターのDCモードではおおよその平均電圧(DCレベル)が測定されます。この場合はDC20Vです。
ACモードでは波高のおおよその実効値が測定されます。この場合はAC1Vです。
テスターのDCモードとACモードの両方を使うことで 「DC20Vを中心にAC1Vの揺らぎがあるんだな。」 とおおまかに把握することができます。
次にドロップ電圧について考えましょう。
これは平均ドロップ電圧です。平均ドロップ電圧はレギュレーターの発熱などを計算するときに用います。例えばこの状態でレギュレーターが1Aを出力していると、レギュレーターの平均発熱量は
5V × 1A = 5W となるわけです。
入力電圧が変動しているわけですから、ドロップ電圧も上下します。最もドロップ電圧が小さくなるところを最少ドロップ電圧と呼びましょう。計算の仕方は解りますね?
リニア電源をセッティングする際には、この最少ドロップ電圧が、レギュレーターの必要とするドロップ電圧を下回らないようにしなければなりません。
良くある間違いが、平均ドロップ電圧だけで判断するケースです。
実はこのレギュレーターは3V以上のドロップ電圧が必要なものなのです。平均ドロップ電圧だけを測って3.5V以上あるから大丈夫だろうと判断した結果こうなってしまいました。ご覧のようにレギュレーションの悪化が起きてますね。こうなるとレギュレーターは本来の能力を発揮できません。
注意が必要なのは、出力電流が増えるとトランスからの電圧が下がって同様の問題が起こることがあるということです。大電流出力時に平滑コンデンサーの容量が足りないとリプル電圧も大きくなります。そういったことを予見して設計に余裕を持つなど充分な注意を払う必要があります。
より正確を期するためにはストレージオシロやデータロガー機能のあるテスターを使うのが良いでしょう。テスターのAC測定は早い周波数には追従できないため正確な測定はできないことがあると知っておいてください。
Eパワートランジスターの選定、発熱と放熱について
リニアレギュレーターはトランジスターを精密に制御することで安定した出力電圧を得ています。そして、リニアレギュレーターから電流を出力しているときに、その電流の大部分を担っているメインのトランジスターを出力トランジスターと呼びます。この出力トランジスターには大型で電力用のパワートランジスターが使われることが多いので、出力パワートランジスター、もしくは単にパワートランジスターと呼ぶことにしましょう。(出力トランジスターを制御トランジスターと呼ぶことも多いのですが、被制御トランジスターなのか、制御回路のトランジスターなのか紛らわしいので、ここではその呼び名は使いません。)
高音質を求めてカスタムでリニア電源を作ろうとするときの大きな利点のひとつは、用途に合った最適なパワートランジスターを選択できるということです。リニアレギュレーターにおいてパワートランジスターが音質へ与える影響はとても大きいです。パワートランジスターに限りませんが、一般的にトランジスターは電流容量が小型のものほど音質が良い傾向があり、決して大が小を兼ねるようなことはありません。そのため、使用目的にあわせた高音質なリニア電源をつくるためには、パワートランジスターの選定はとても重要な要素になるのです。目的のために充分な能力を持っていながらも、必要以上に大きなトランジスターを選ばないように気を付け、しっかりと最適なパワートランジスターを吟味しましょう。もちろんトランジスターの耐電圧はリニアレギュレーターの入力電圧を充分に上回るものである必要があります。
トランジスターの音質を論ずるうえで重要なパラメーターは複数あるのですが、つまるところ、実際に使って音を聴いてみるしか評価する方法はありません。ただ、おおまかな目安としてはリニア電源として必要とされる消費電流(出力電流)のおよそ3倍の最大コレクタ―電流のトランジスターを選ぶと良いということは謂えます。トランジスターには直流電流増幅率という重要なパラメーターがありますが、このパラメーターはコレクター電流が限界値に近づくと急激に低下するからです。直流電流増幅率が低下するとトランジスターは充分に機能しなくなります。より詳しくは個々のトランジスターのデータシートの内容を検討する必要があります。
もう一つ重要なことはパワートランジスターの発熱です。
パワートランジスターの発熱量(W) = 平均ドロップ電圧(V) × 出力電流(A)
この式からわかる通り、ドロップ電圧が増すほど、出力電流が増すほど、パワートランジスターの発熱量は増えます。発熱するトランジスターは放熱して冷やさないと、どんどん温度が上がってしまいやがて壊れてしまいます。どの程度の発熱量まで大丈夫なのかというと、小型のトランジスターの場合は、データシートに記載されている
『最大コレクタ―損失』 の半分程度から無理をさせても2/3程度迄です。TO-126やTO-220パッケージなどのもう少し大型のトランジスターの場合は、放熱器無しで1Wまで、C3Bに使うような小型放熱器で3Wまでが一つの目安になります。意外に少ないんですよ。それ以上の発熱が見込まれる場合にはもっと大型の放熱器が必要になります。
Fリニアレギュレーターの破壊について
リニアレギュレーターの破壊にはいくつか種類があります。主なものは、過電圧破壊、過電流破壊、過熱破壊の3種類です。
過電圧破壊は何らかの原因でレギュレーターに部品の耐圧以上の電圧が印加されたときに発生する破壊現象です。過電圧破壊は絶縁破壊とも呼ばれ基本的にショートモード破壊です。したがって過電圧破壊が発生した後は、予期せぬ短絡電流が流れる可能性が高い非常に危険な状態です。このことからも部品の耐圧には充分な余裕を持つことが望まれます。
過電流破壊はレギュレーターに大電流が流れることで発生する破壊現象で、主にパワートランジスターに起こります。パワートランジスターの絶対定格以上の電流が流れて、トランジスター内部の流路を破壊してしまうことによるオープンモード破壊です。レギュレーターの出力を不意に短絡したり、大きな突入電流が発生した場合に起こります。過電流破壊は基本的にオープンモード破壊なので、音もなく破壊した後、それ以降はウンともスンとも動かなくなります。完全に機能を失う致命的な破壊ですが、破壊に伴い電源が停止するため比較的危険は少なく、またパワートランジスターの交換でこともなく復旧する場合が多いです。但し、復旧の前に故障の原因は究明しておく必要があります。
過熱破壊はちょっと厄介なものです。他のふたつの破壊現象とは異なり突発的に発生するものではないので、どちらかというと過熱劣化と言ったほうが正確かもしれません。パワートランジスターを定格電圧、定格電流の範囲内で使っている場合にはいきなり壊れることはありません。しかし、パワートランジスターの発熱量が大きく更に充分な放熱が行われていないと内部の接合部温度(ジャンクション温度)がどんどん上昇します。そして、ジャンクション温度が125℃を超えるとトランジスターの劣化が急速に進行し始めます。直流電流増幅率が減少し、ノイズ特性が悪化します。ある一定上劣化が進むと、もはやトランジスターとして機能することが出来なくなり、やっと不具合として表面化します。放熱設計を疎かにしたまま、組み立て初期の試運転でちゃんと動いてるからいいだろうとそのまま使っていると、せっかく作ったマシンの寿命が短くなってしまうかもしれません。
これを防ぐにはパワートランジスターの表面温度を50℃から、高くでも70℃以下に抑えたほうが良いでしょう。パワートランジスターの熱管理には、触れずに検温できる放射温度計があると便利です。2000〜3000円の安物で充分に役目を果たせるので用意しましょう。(余談ですがトランジスターの寿命は無限ではなく通常の使用状態でも徐々に劣化が進行しています。まぁ、ちゃんと作られてるトランジスターの寿命はものすごく長いですが。)
G突入電流の測定方法
執筆中