アリス 「今回はシンプルな企画なんです。」
みみずく 「ほぉ。」
アリス 「コンセプトは “ 音が良くて使いやすい小電力電源 ” です。」
みみずく 「ふむふむ。」
アリス 「というのも、いま進めているOPALの妄想プロジェクト、つまりディスクリートアンプによるイロイロな企みですね、
OPALには多くの定電圧レギュレーターが組み込まれるので、それらに電力を供給する電源が必要になります。」
みみずく 「大掛かりになりそうだな。」
アリス 「そうですね、普通にやると大掛かりになって手におえなくなりそうです。
それで、使いやすくて、パーツの入手が容易で、トランスが実装できて、高音質、できれば低コストの
変圧&整流&平滑ができる非安定電源の基板が欲しいと思ったわけです。
近いコンセプトの基板にUBR−2がありますが、10Aまでの中電力用でコストもかかりますし、
大型のトランスに対応するために別体実装なので組み上げに手間がかかります。」
みみずく 「なるほどね。トランスをケースに固定するのは面倒なことのひとつだからなぁ。
トランス込みで非安定電源を基板一枚でできると地味ながら便利ではあるね。
回路自体は基本的で簡単なものだし、特に難しいところは無さそうだ。」
アリス 「整流方式はセンタータップ式両派整流で行きたいと思います。」
みみずく 「センタータップ式はグランドの取り方に利点があるから良いかもね。
通常使われるブリッジ式整流と比べるとトランスの利用効率が落ちるので、少し大きめのトランスを使う必要がある。」
アリス 「だいたい1.2倍程度にすればいいんですよね?」
みみずく 「そうだね “ センタータップ式両派整流は1.2倍 ”
と覚えておくといい。
トランスの規格は基本的にブリッジ整流を基準に記載されているので、
例えばトランスに10VAの容量が必要であれば12VAと記載されたトランスを用意すればいい。」
アリス 「最近は電源トランスを使う機会が増えてきたのでわかりますけど、
トランスの選び方って難しい面もありますよね?
このまえAL3886FMC用に特注トランスをつくってもらったんですけど、ずいぶん勉強になりました。」
みみずく 「特注トランスを発注したのかい?それはまたいい経験をしたね。
まぁ、確かにトランスは使ってみるまで分からない点も多い。
データシートが似ているトランスでもメーカーが異なれば振る舞いが違うことも多い。
そういう面からは選ぶのが難しいパーツとはいえるかな。
自分の作る回路にベストなトランスを得るには、どうしても多少の授業料は必要になる。」
アリス 「おまけにパーツとしては高価な方ですしね。
私も使っていないトランスの在庫がずいぶん増えました…
もちろん、そのうち活用するつもりです。」
みみずく 「在庫トランスの活用方法を考えるのも楽しいもんだよ。
おっと、話がそれているな。」
アリス 「というわけで、基板のアートワークはほとんど終わっています。
名前も決まっていてCTS−1です。
C:センター T:タップ S:整流
の略です。」
みみずく 「相変わらず日本語と英語が混ざっているんだな。」
アリス 「こういうのはインスピレーションなんですよっ!
入手容易でコストパフォーマンスの高いRSコンポ―ネンツの基板実装型トロイダルトランスに対応しています。
LDM2041,LDM2042と同様に1.6〜25VAのサイズのトランスを実装することができます。
以下、データシートから一部抜粋です。RSコンポーネンツのHPで型番(Part Number)から直接検索できます。」
アリス 「このデータシートには一部に誤字があります。
10VA 2x22V のトランスの型番は正しくは70045です。」
× 10VA 2x22V 70055
◎ 10VA 2x22V 70045
みみずく 「1次側AC115V入力の規格だから、AC100Vで使う場合には2次側電圧は1.15で割ったAC電圧になるな。」
(例) 115V(1次) : 22V(2次) → 100V(1次) : 19.13V(2次)
アリス 「海外製のトランスを使う際にはそういう注意が必要ですよね。」
みみずく 「注意点としては、巻線の太さからくる制限があるので最大電流は変わらないということ。
AC115V入力で2次側に1A流せるトランスは、AC100V入力でも2次側には1Aまでしか流せない。
それを守らないと異常過熱する可能性が出てくる。
あ、データシート上の最大電流値は平均値、つまり直流換算ね。」
※トランスやダイオード、コンデンサーの選び方については参考文献も多いでしょうし、ここでは細かく説明しません。
検索のキーワードは
“ センタータップ 整流 直流電圧 トランス VA ダイオード 耐圧 ” などでしょうか。
UBR−2の記事も参考にしてください。
アリス 「例によって、ちょっと工夫をして一枚の基板で正負両電源、正電源、負電源に使えるようにしてみました。」
みみずく 「それは面白いな。きっと便利だろう。」
アリス 「それぞれ説明していきます。
まずはCTS−1の基本レイアウトです。」
みみずく 「トロイダルトランスは1次側が並列で、2次側が直列になっているんだな。」
アリス 「はい。以下、それぞれの配線のやり方です。」
( 正負両電源 )※最大出力電流は正負ともにトランスのデータシート記載の電流値まで。
アリス 「いわゆる、通常のセンタータップ式両派整流です。」
( 正電源 )※最大出力電流はトランスのデータシート記載の電流値の倍まで。(ふたつの巻線に負担を分散しているため。)
アリス 「基板上のコンデンサーを無駄なく活用できるように工夫をしました。」
( 負電源 )※最大出力電流はトランスのデータシート記載の電流値の倍まで。(ふたつの巻線に負担を分散しているため。)
アリス 「上記と同様にコンデンサーを無駄なく活用できるように工夫をしました。」
アリス 「一応ですが、一般的なブリッジ整流も可能です。参考にしてください。
実は正負両電源との違いはセンタータップの有無だけになります。」
(ブリッジ整流)
(CRフィルターやチョークインプットについて)
アリス 「上記の配線例は一般的なコンデンサーインプットになりますが、
接続を配線ではなく、抵抗器、インダクター、チョークコイルに置き換えることで
CRフィルターやLCフィルターやチョークインプットに変更することもできます。」
※突入電流の制限や音質のチューニングについてはこちらも参考にしてください。
→インダクターとパワーサーミスターの取り付け
(パイロットランプ:動作確認用LEDについて)
アリス 「基板上にはパイロットランプとしてLEDの D+ 、 D- と電流制限用の抵抗 R+
、 R- があります。
シルク印刷のミスで表記が混ざってますがあまり気にしないでください。
動作確認用ですからLEDには数m〜20mA程度の電流が流れるようにRを設定すればいいでしょう。」
(例)
Vf(順方向電圧)が1.8VのLEDを使ったとします。
平滑後の直流電圧が約20VだとしてLEDには10mA(けっこう明るい)が流れるようにしたいとします。
抵抗にかかる電圧 : Vr = 20-1.8 = 18.2V
オームの法則で E = R*I だから両辺を I で割って、
必要な抵抗値 : R = E/I = 18.2V/10mA = 1820R ≒ 1.8kR
(5mA流せる3.6kRくらいでもいいような気もします)
(入出力端子について)
アリス 「金メッキネジ止め端子やおなじみのターミナルブロックが使えます。
用途や好みで選んでください。」
(システムアップの例) ※高性能なリニア電源アダプターのつくり方についても説明しています。→こちら
アリス 「CTS−1は定電圧レギュレーター基板のRBT−1やC3Bとの相性が良いです。
小出力の正電源が必要なときはC3Bがコンパクトです。
レギュレーターの発熱量が3Wを超えるときや高性能が必要なときはRBT−1(+)がいいでしょう。
正負電源や負電源が必要なときはRBT−1(+)/(−)を使います。
コンデンサー増強のためにケミコンボード(CB−36)を使うことも面白いです。 」
(RBT−1で正負両電源の例)
(RBT−1で正電源の例)
(RBT−1で負電源の例)
(C3Bで正電源の例)