【 おおまかな使い方 】
アリス 「全体像がわからないと、さっぱり話が進みませんから、
ここではALP-mkIIをおおまかに理解してもらえたらなと思います。」
アリス 「ALP−mkIIは前段オペアンプと後段オペアンプの2つの増幅回路と、
その間に可変抵抗器を擁する構造になっています。
この基本構造はALP−1と同様です。
ALP−mkIIになって帰還回路とパッシブフィルターの設計自由度が飛躍的に充実しました。
特に、フォノアンプや磁気テープ再生用ヘッドアンプなどの“イコライザーアンプ”を製作するために
大変有用な基板になっています。」
みみずく 「そのおかげで、ちょーっとばかり扱い方がわかりずらくなってしまったようだ。」
アリス 「なので、少しづつわかってもらえたらOKです。」
アリス 「さて、各ブロックのことについてお話ししましょう。」
- 入力インピーダンス調整回路
ここでは入力の抵抗値や静電容量値を変化させることで入力インピーダンスのコントロールを行います。
MCカートリッジ、磁気テープヘッド、マイク(出力トランス内蔵)などはプリアンプの入力インピーダンス特性の影響を強く受けます。
音質のチューニングのためには入力インピーダンスの調整が容易に出来ることが望ましいと考えました。
- Phantom入力回路
マイクプリアンプとして使う場合にはコンデンサーマイクを駆動するためのファンタム電源を使用できた方が良いので、
導入回路を用意しました。
- バランス/アンバランス入力
ALP−mkIIはジャンパーピンによる簡単な変更で、アンバランス入力にもバランス入力にも対応できます。
バランス入力時には計装アンプを使うことも出来ます。
- バランス入力用オペアンプ
バランス入力用のオペアンプを追加することで、
インスツルメンテーションアンプ(計装アンプ)を組むことができます。
インスツルメンテーションアンプはセンサー信号を受ける高性能アンプなどにも使われていて、
高精度なバランス入力処理が可能です。
ここには双回路オペアンプが使えます。
- ディスクリート初段回路
オペアンプの前段にディスクリート回路を使ってローノイズ性能を向上させるという手法があります。
プロ用のレコーディング機材などで使われる方法です。
バイポーラトランジスターとJ-FETをどちらでも使えるようになっている差動回路で、
前段オペアンプの初段として機能します。(要、高精度選別ペアリング品)
バイポーラとJ-FETは音質も特性も全く異なるデバイスなのでセッティングの幅が広がります。
ディスクリート初段回路は有効無効を簡単に切り替えできます。
- 前段オペアンプ
入力と前段増幅を行います。ディスクリート初段回路が無効のときは直接信号を受け取ります。(アンバランス時)
単回路か双回路のどちらかのオペアンプを使用できます。
- 前段帰還回路
抵抗のみで通常の帰還回路を構成したり、コンデンサーを併用することで位相補償を行ったり、
周波数特性を持たせることでアクティブフィルターを構成することができます。
特性の微調整のために半固定抵抗器を使うことも出来ます。
- 音量調整用可変抵抗器(ボリューム)
音量調整用の可変抵抗器を使う場合はここに接続します。
オンボードに小型の可変抵抗器の実装は可能ですが、通常はパネルに取り付けた可変抵抗器からここまで配線します。
可変抵抗器の有効無効は簡単に切り替えできます。
- パッシブフィルター
CR回路を使ったパッシブフィルターを組むことができます。
フォノイコライザーアンプやNABイコライザーアンプなどに応用できます。
アクティブ型とパッシブ型のイコライザーは明らかに音質が異なります。是非お試しを。
- 後段オペアンプ
後段増幅と出力を行います。40-60dBを超えるような増幅率を得るためには、
オペアンプひとつで行うよりも二つのオペアンプで行ったほうが有利なことも多いです。
単回路か双回路のどちらかのオペアンプを使用できます。
- 後段帰還回路
前段帰還回路と同様です。
- 電源回路
ALP−mkIIはディスクリート初段回路、前段オペアンプ、後段オペアンプのそれぞれに個別給電するために、
定電圧レギュレーターを合計6基装備します。
配線を工夫すれば、2基のレギュレーターで全体を動かすことも可能ですが、
レギュレーターに手を抜くと音質ポテンシャルが数割はダウンするので、
高音質を得るためには、しっかりとチューニングしたレギュレーターをフルで装備したほうが良いです。
アリス 「代表的な用途について、おおまかにお話ししましょう。」
- ラインプリアンプ
音量調整用とラインケーブル駆動用のラインプリアンプとして使います。
音量調整機構を持たないパワーアンプなどへ信号送る役目を担います。
入力インピーダンス調整回路は必要ありません。
前段オペアンプ、音量調整用の可変抵抗、後段オペアンプを主に使用します。
帰還回路は抵抗値のみか位相補償用のコンデンサを一部並列で使います。
ディスクリート初段回路は好みに応じてどうぞ。
バランス入力にしてバランスレシーバー(平衡不平衡変換器)として運用することも出来ます。
バランス入力用オペアンプを使うと更に高精度なバランス入力が可能になります。
カップリングコンデンサーでDCカットするもよし、そうせずにDCアンプにするもよし。
レギュレーターのチューニングで高音質を狙いましょう。
- RIAAフォノイコライザーアンプ
アナログレコード再生用のRIAA特性のイコライザーアンプとして使います。
ALP−mkIIでは複数の方式のフォノイコライザーアンプをつくることができます。
(イ) NF型 : 前段オペアンプによるアクティブフィルターでRIAA特性を得る。後段オペアンプは出力バッファー。
(ロ) NFNF型 : 前段オペアンプで低域の、後段オペアンプで高域のRIAA補正を行う。ともにアクティブフィルター。
(ハ) CR型 : オペアンプでは増幅のみを行い、CRパッシブフィルターのみによりRIAA特性を得る。
(二) NFCR型 : ハイブリッド型とも呼ばれる。前段オペアンプで低域の、CRフィルターで高域のRIAA補正を行う。
それぞれに音質が異なるので好みを追及するのも面白いと思います。
- MCヘッドアンプを兼用
前記のRIAAフォノイコライザーアンプにMCヘッドアンプを兼用させます。
MC/MMカートリッジの切り替えは音量調整機能を応用して対応すると良いでしょう。
MCカートリッジには様々なインピーダンスのものがあり、
特に、こだわりの高音質のためには低インピーダンス低出力タイプのカートリッジは見逃せません。
そういったMCカートリッジにはヘッドアンプの入力インピーダンスの調整が有効に働きます。
ALP−mkIIはMCヘッドアンプとRIAAフォノイコライザーアンプを兼用できるうえに、
音量調整機能を同時に使うセッティングにすれば、パワーアンプにダイレクトに繋いで使うことができます。
- MCカートリッジバランス受け
上記の補足です。
MCカートリッジからALP−mkIIまでバランス伝送を行います。
当然、ALP−mkIIはバランス入力モードで使います。
バランス入力用オペアンプを使って高精度にバランス信号を受けることも出来ます。
MCカートリッジからバランス伝送を行うと、
微小信号の伝送路にシャーシーアースなどの余計なものが接触しません。
また、信号路のホット、コールド間の対称性や平衡性が確保されます。
このことが音質に利点をもたらす可能性があります。
- 磁気テープ再生用のヘッドプリアンプ
磁気テープの再生ヘッドからの信号を受け取るヘッドプリアンプです。
磁気テープはその物理的性質から、再生時に周波数に比例して出力電圧が増大します。
ヘッドプリアンプは、これを平坦な周波数特性に補正するイコライザーアンプです。
テープ用のイコライジングカーブには複数の種類があります。
その昔、カセットテープで目にしたノーマルポジション、ハイポジション、メタルポジション、
というのも磁気テープの種類に対応したイコライジングカーブの一種です。
ALP−mkIIではどの磁気テープのイコライジングカーブでも再現できます。
今のところ、オープンリール磁気テープ用のNAB特性とCCIR特性が代表的なものだと思います。
前記と同様にバランス伝送受けが可能なら、何らかのメリットがあるものと思われます。
- DAC用 I/V変換 差動合成回路
高品質なDACチップはそのほとんどが電流出力型で、
電流信号を電圧信号に高精度に変換する 『 I/V変換 差動合成回路 』 が必要になります。
ALP−mkIIを応用することでDACに用いるハイクオリティーなI/V変換 差動合成回路を作ることができます。
ALP−mkIIで音量調整を行うことで、DACチップのデジタルアッテネーターを使用するよりもS/N比で有利になります。
- マイクプリアンプ
ファンタム電源の追加が可能なのでコンデンサーマイク用のマイクプリアンプとしても使えます。
入力インピーダンスの調整機構があることも利点でしょう。
ゲイン調整などはちょっと工夫が必要です。
- 楽器のピックアップ用プリアンプ
ディスクリート初段回路で信号を直受けすることも可能なので、
楽器のピックアップ用プリアンプとしての活躍が期待できます。
セッティングを詰めれば、演奏の繊細な表情を拾い上げるアンプをつくることが可能でしょう。
繊細な信号を余さず受け止め、適正レベルまで増幅し、
ノイズを紛れ込ませないためにローインピーダンスでエフェクターやレコーダーに送り出してあげましょう。