Alice In Underground (アリス・イン・アンダーグラウンド)

〜アリスの地下研究室〜

 


 

AL3886FMC 電流制御型パワーアンプ (LM3886使用)

【 試作日誌 】

 

アリス 「さて、基板もできあがったことですし試作を進めていきたいと思います。

     回路規模が大きくて複雑な基板なので一応、組み立ての段取りを考えることにします。」

 

(組み立ての段取り)

@背の低いパーツから優先して取り付けがセオリー。
 小型抵抗器とダイオードを実装

A必要であればオペアンプのICソケットとジャンパーポストを実装(ICソケットを最初につけるのも良いような…)

B金メッキねじ止め端子と必要であれば音声入力端子を実装

CLEDとフィルムコンデンサー、セラミックコンデンサーを実装

D大型抵抗器、アイソレーションコイルを実装

E小型トランジスターを実装

Fバスワイヤー実装

G大型トランジスターとLM3886を固定場所に位置決めしながら実装

Hレギュレーターを組み立てて所定の出力電圧に調整

IレギュレーターをAL3886FMC基板に実装

J電解コンデンサー(ケミコン)を実装

Kソケットにオペアンプ取り付け

Lジャンパースイッチ取り付け

完成

 

アリス 「あとは臨機応変に…その場しのぎで…

     ところで、LM3886の取り付けについてです。
     ICのピンをこんなふうに加工して基板の裏から取り付けます。

    

アリス 「よかった。ちゃんと取り付けられるようです。」
     (当たり前に思うかもしれませんが、初めての基板で試すときは確認するまでドキドキします)

  

アリス 「この様子を見て、基板をサイドフィンに取り付けるスペーサーの高さは7oに決めました。」

  

アリス 「とりあえず、基板が不具合なく完成しているのか確かめたいので
     自家製レギュレーターの組み立ては1号から5号レギュレーターまでとして、
     残りは手っ取り早く三端子レギュレーターを使います。
     12号と13号レギュレーターは機能拡張用のものなので今は取り付けの必要はありません。
     これは動作確認用の仕様ですが、AL3886FMCをもっともリーズナブルにまとめる仕様でもあります。

  

 

アリス 「かなりがんばったんですけど、なかなか出来上がりません。
     今日はここまで。」

  

 

アリス 「やっと実装が完了しました。(片チャンネルのみ)

     やっぱり、かなりの作業量ですね。
     今回は急いでつくってますが、いつもなら2〜3週間かけてゆっくり仕上げるようなカンジでしょうか。

     サイドフィンに基板、パワートランジスター、LM3886を固定しています。
     サイドフィンの剛性がとても高いので大変しっかりと固定することができました。

     パワートランジスターの取り付けには絶縁シートが必要です。」

    

    

 

アリス 「レギュレーターを13基実装した状態です。今回はLED.Regと三端子レギュレーターを使いました。
     ソケットで実装しているのでいろいろ差し替えて実験する予定です。」

    

 

アリス 「1号〜5号に実装するレギュレーターにはちょっとした加工が必要です。
     こんな感じに。」

  
  (パワートランジスターを実装しないで3×2のL字ピンヘッダを取り付けます。)


アリス 「もう1チャンネル分を完成させたら、いよいよ実用実験に取り掛かります。」

 

アリス 「まとまった時間がなかなか取れなくて、もう一機の試作がさっぱり進みません。

     止むを得ないので完成している片チャンネルで実働試験をすることにします。

     電源に使うUBR-2を組み立てました。
     コンデンサーは小型の超高性能品 WXの50V330uFを34本載せました。

     ほかにはWAの50V330uFを34本、またはAXの50V1800uFを10本載せてもいいですね。」

    

アリス 「AL3886FMCの基板を最終チェックしているとシルク印刷のミスを見つけてしまいました。
     あ〜あ、残念っ!完璧にはできませんでした…(涙)

     気を取り直して再度念入りにチェック!回路には間違いは無さそうです。
     さぁ、それではAC100Vに接続して火入れをしてみましょう。

     初火入れは何度やっても毎回とても緊張します。

     うまくいくはず。きっとうまくいくはず。

     …でも、どこかにミスがあったら?

     バクハツするかもしれないよ?

     思ってもいないような致命的なミスがあるかもしれないよ?

     …あぁ、ドキドキします。

     万が一の事故に備えて目を保護するゴーグルをつけてと。

     深呼吸を…、スーハー、スーハー…

     期待と緊張で汗ばみます。

     いざっ!

     スイッチオオオォォォォォォーーーーーンッ!!!」

 

 

アリス 「…ッ!!!

     動いたッ!!!

     やりましたよ!ちゃんと動きました!!

     あぁ、よかった。苦労が報われたような気がします。

     いやー、ちゃんと動くなんてアタリマエジャナイデスカ。
     あたくしが設計したんですよ?ふっふっふー。

     などと急に余裕が出てきますが、異常がないか素早くあちこち確認します。

     各部、異常電圧なし、異常発熱なし。煙も抵抗の焼けるニオイもありません。

     どうやら正常に作動しているようです。これで一安心。

     さて、設定を変更して機能の確認をしてみましょう。」

 

     ●カレントセンシングフィードバック : CSFをオンにします → 異常動作なし

     ●DCサーボをオンにします → スピーカー出力のDCオフセットが1.9mVから0.024mVへ
      DCサーボも正常に作動しているようです。
      この基板に実装したLM3886はDCオフセットが小さい個体だったようです。

     ●DCリークアラート回路をトリガー → アラートランプ点灯
      プラストリガーでもマイナストリガーでも正常作動を確認
      本体基板の電源を遮断するまで非常停止状態の維持を確認
      電源再投入で非常停止状態の解除を確認
      DCリークアラート回路は正常に作動しているようです。

 

アリス 「DCサーボには入力と出力があります。
     AL3886FMCはDCサーボをオフにする場合にその機能を停止させるだけでなく、
     入出力両方の切り離しを行うことで音響回路からDCサーボを完全に切り離すスペシャル仕様です。」

 

アリス 「では、いよいよスピーカーをつないでテストしてみましょう。
     CSFはオフ、DCサーボはオンでテストします。

     さぁ、どうなりますか…

     …うん、ちゃんと音楽が再生されます。

     片チャンネルのモノラルなので何とも言えませんがアンプとして正常に機能しています。

     早くステレオで聴きたいなぁ…」

 

アリス 「音楽を再生している状態でDCリークアラート回路をトリガーすると速やかに非常停止に移行してロックされます。
     非常停止への移行も無音かつスムーズでこれは工夫した甲斐がありました。
     ※DCリークアラート回路の立ち上がり時間よりも大幅に短い時間で大きなDCが入力から流入した場合は
      非常停止の瞬間にスピーカーからパチッと音がする場合があります。

     DCリークアラート回路はノイズ源とならないように
     一部をディスクリートで組んだ最小限のアナログ回路としました。
     単純明快な動作で信頼性も高いです。センシングはハイインピーダンスで行っていることとあわせて、
     通常の待機時には非常停止回路にはほとんど電流が流れない仕様としましたので
     音質への影響は極めて少ないはずです。
     

     次にCSFをオンにしてみましょう。

     CSFの動作強度を上げていくとスピーカーの駆動状態が変化します。
     CSFも正常に作動しているようです。

     基板の配線パターンを吟味したせいなのか、パーツに気を使っているせいなのか
     実験回路よりも良い音な気がします。
     とはいえ、まぁモノラルですから…
     早くステレオで聴きたいなぁ…

     少し大きな音で流しておいてもほんわり温かくなる程度です。
     さすが大きな放熱器を使っているだけあって発熱にも充分な余裕があるようです。」

 

アリス 「AL3886FMCの基板は設計通りに出来上がったことが確認できましたので
     頒布希望の受付を始めようと思います。
     詳細はこちらをご覧ください。」

     AL3886FMC 頒布について

アリス 「あとはもう片チャンネルを早く完成させることにしましょう。

     そのあとは引き続きセッティングを追い込んで
     基板の良さを引き出すチューニングの見極めをしていこうと思います。

     製作マニュアルもつくらないといけませんねー。

     それと、AL3886FMCには機能の拡張ができるような仕掛けがしてあって、
     例えば、そのうちつくろうと思っている高音質のディスクリートバッファーアンプを載せられるようになっていたりします。
     他にもいろいろとできることがありそうなので今後検討しようと思っています。楽しみ。」

 

アリス 「やっと試作基板のもう片方が完成しました。

     いそいそと電源につないで電圧の調整を済ませます。
     各部の異常がないことを確認して、DCサーボやDCリークアラート回路の動作を確認します。

     問題ナシ。

     さぁ、これでやっと試作基板の音を聴くことができます。

     音楽スターーート♪

     …

     ……

     ………

     あぁ…、ステレオって素晴らしいですね…
     これで明日からは右と左のどちらを聴くのか迷わなくて済みます。嬉しいなー。

     一聴してすぐにわかりました。これは凄いアンプになります。そう直感しました。
     なんと言いますか大変に格の高い音がします。

     稼働テストのためとはいえ、
     全くチューニングを施していないほぼ最低スペックの状態ですからこれは大いに期待できます。
     現状のセッティングでもLEDレギュレーター特有のスケール感の大きな音が堪能できます。
     正直に言ってスピーカーからこれほどの音が聴けるとは思ってもいませんでした。

     これは強烈な潜在能力を感じさせます。素晴らしいです。

     チューニングの腕が鳴りますね♪」

 

アリス 「ぱらぱらと頒布のお申込みや組み上げ依頼のご相談をいただくようになりました。

     わたくしの妄想にお付き合いいただきまして誠にありがとうございます。

     この音ですとさらに先へと進むことが出来そうです。

     それでは殊勝奇特な同好の皆様、おそらくわずかな人数です。
     しばしの間、ご一緒に音の旅と参りましょう。」

 

アリス 「さぁ、いよいよ思う存分チューニングができます。
     AL38886FMCはいったいどんな音を聴かせてくれるのでしょうか。

     …と、その前に。

     はやる心をぐっとこらえて、データ収集と安定性のテストです。

     LM3886は高帰還型のアンプです。
     高帰還アンプは負帰還の力を積極的に利用することでとても高性能なのですが難しい面もあります。
     帰還量を増やしすぎたり帰還信号に干渉を受けたりすると、
     条件によっては動作が不安定になり発振することがあります。
     大振幅で発振するとスピーカーユニットのヴォイスコイルが電子レンジになってしまいます。
     スピーカーがオーバーヒートで焼けてしまうと困ります。

     というわけで、AL3886FMCはどのくらいまで追い込んでも大丈夫なのかテストしたいと思います。

     とりあえず8オームフルレンジユニットでは特段の問題は起こりませんでした。
     スピーカーケーブルが約20pと短いので容量負荷の問題もほとんどありません。条件としてはやさしいですね。
     (ケーブルやスピーカーのヴォイスコイルは誘導負荷ですが、寄生容量が問題になります。)
     帰還量を増やして増幅率を11倍まで抑えても動作の安定は保たれています。
     (それ以上の帰還量でのテストはデータシートからも不要と判断し行っていません。)
     AL3886FMCはいろいろとテクニカルなことをやっているので高帰還では不安定になるかと思ったのですが
     大きな問題がなくてホッとしました。
     しかし、帰還量を大きく増やしたときには
     不思議なことにNFBよりもむしろCSFのほうが安定している様子です。」

 

アリス 「それでは、より厳しい条件でテストしてみましょう。

     今度はスピーカー出力に0.1uFのコンデンサーのみを取り付けてみます。
     他には何もつなぎません。

     コンデンサーに代表されるような静電容量を持つ負荷を容量性負荷といいます。
     ケーブルやスピーカーのヴォイスコイルは誘導負荷ですが、
     ケーブル内の電線間の静電容量や、コイルの巻線間の静電容量などの寄生容量があります。
     この寄生容量による容量負荷がアンプの安定性に影響を与えます。
     アンプの出力につながれた容量性負荷は出力抵抗との関係からポールができるため
     電圧位相を遅らせるように作用します。
     ポールよりも周波数が高くなるにしたがって電圧位相が遅れはじめ最大で90度まで遅れます。
     その影響として負帰還の動作安定度を確保するための位相余裕が減少します。
     位相余裕がある限界を下回るとマイクをスピーカーに近づけたような現象(正帰還)が起きて発振に至ります。

     0.1uFの容量負荷というのはそれなりに重たくて、
     対策なしなら多段増幅を行っている高帰還アンプの多くは容易に発振します。

     スピーカーケーブルにも静電容量があるため、
     容量性負荷の大きなケーブルはアンプの安定性に影響を与える可能性があります。
     しかし、スピーカーケーブルの静電容量は周波数が上がるにしたがってどんどん小さくなる傾向があるので、
     コンデンサーほどには悪質(?)ではありません。

     というわけで0.1uFのコンデンサーを容量性負荷にして、安定性の目安を検証していきたいと思います。
     高周波帰還回路のセッティングも同時に済ませてしまいましょう。(本当はこちらがメインの目的)
     AL3886FMCは容量性負荷に対抗するためにアイソレーションコイルを装備していますが、
     回路の構造からみて実機を使って高周波帰還回路とのマッチングを取る必要があります。

     以下、

       帰還量を増やすと↑ 増幅率が減り↓ 、 帰還量を減らすと↓ 増幅率が増す↑

     という基本的性質を覚えておいてください。」


     @安定性テスト
       ・負荷 : 0.1uF
       ・高周波帰還回路 : なし
       ・増幅率31.1倍まで安定
       ・増幅率23.1倍で発振


アリス 「うーむ、なかなか厳しいですねー。

     少し余談です。

     LM3886は最大振幅で発振に至ると1〜2秒程度で過電圧保護のプロテクションが働いて停止状態になります。
     賢いですね。ただ、安心できないのは、
     そのまま電源を切るとバックラッシュでスピーカーにダメージを与えるかもしれないということです。
     どうやら完全に電源が落ちる直前の一瞬だけプロテクションが解除されるらしくて
     それが悪さをするような気がします。
     これは確定事項ではありませんが、もしLM3886を使っているアンプが異常発振で停止した可能性があるなら、
     スピーカーケーブルを外し、接続されている他の機材の電源を落としてから、
     対象のアンプの電源を切ったほうが安全でしょう。
     まぁ、万が一、そうかもしれないっていう話です。どのみち発振しないようにするのが一番です。
     DCリークアラート回路による非常停止はただのミュートですから
     気にしないで普通に電源を切ってリセットしてください。
     話を戻します。

     ここで位相補償について触れておきます。

     高帰還アンプは位相余裕がなくなると発振すると言いました。
     アンプが発振すると困ります。
     それで、どうにかしてアンプの位相余裕を確保するために多くの手法が編み出されました。
     その中に位相補償と呼ばれるテクニックがあります。
     特にアンプ製作の最終段階で調整的に使われることの多い技術です。

     ところでこの位相補償はとても有効なものなんですが、
     困ったことに使いすぎるとアンプの安定性は高まるものの音が確実に悪くなってしまいます。
     高帰還アンプの副作用を抑える必要悪のようなもので、
     強力な薬(負帰還)と一緒に胃薬(位相補償)を飲むようなものです。

     こういうことを書くと、あぁ位相補償ってあれだ、ダメなやつなんだね。
     と思うかもしれませんがそんなことは全くありません。

     上手に位相補償をかけるとアンプの無駄な動きを減らし
     パフォーマンスを引き出せるので音が良くなることもあります。
     とても奥が深い技術だといえます。経験に裏打ちされた実戦的なやり方も多く、
     技術のある人の話を伺うのはとても楽しいです。勉強勉強。

     で、AL3886FMCの高周波帰還回路は位相補償も兼ねているんです、ということで話がつながります。

     それでは次に安定を重視して高周波帰還回路をセッティングしてみましょう。」


     A安定性テスト
       ・負荷 : 0.1uF
       ・高周波帰還回路 : 安定性重視
       ・増幅率12倍まで安定
       ・増幅率11倍で発振


アリス 「効果てきめんに安定しましたね。

     で も ぉ ー ……

     …安定性は文句なしですが、音がヌルいですね。

     一応、目安としては、0.1uFの容量負荷で増幅率20倍くらいでの安定動作を狙います。
     そのくらいあれば実用上の問題はないでしょう。」


     B安定性テスト
       ・負荷 : 0.1uF
       ・高周波帰還回路 : もう少し追い込む
       ・増幅率16倍まで安定
       ・増幅率14.3倍で発振


アリス 「だいぶ音が良くなってきました。
     もう少しギリギリまで追い込んでみましょう。
     この回路と基板ではどこまでいけるでしょうか?」


     C安定性テスト
       ・負荷 : 0.1uF
       ・高周波帰還回路 : ギリギリまで追い込む
       ・増幅率19.2倍まで安定
       ・増幅率16倍で発振


アリス 「うん、このくらいがいいでしょう♪
     音も問題なしです。決定。

     ここまでカンタンにやっているように見えますよね?
     そんなことはありません。七転八倒です。
     いろんな機材や書籍を引っ張り出して研究室がめちゃくちゃです。
     特に変わった回路構成にしてしまってるのでおいしいポイントを取るのがとても大変です。

     部品の付け替えも何度もしています。もう飽きましたよ…わたし根気ないのに…

     部品の付け替えを繰り返していると、だんだん基板がボロボロになってきます。
     箔厚70μmにしておいてよかった。
     ランドが強いので簡単には剥離しません。
     スペアがないので大事に、大事に…

     しかし、これで高周波帰還回路のセッティングが決定しました。
     高周波帰還回路のセッティングは実用上の大きなポイントでした。

     これで音質のチューニングに専念できるようになります。」

 

アリス 「本格的なチューニングの前に小休止です。

     AL3886FMCの拡張機能の使い方についてです。

     AL3886FMCは基板上にドーターボードを取り付けられるようになっていて
     本体基板のシステムとは別に正負の電源を供給できるようになっています。(12号、13号レギュレーター)

     具体的にはオンボードのディスクリートバッファーアンプを考えていますが、
     他にもバランスレシーバーや(バランス入力を直接受けられるようになる)
     チャンネルディバイダー(バイアンプで使いやすくなる)なども面白いんじゃないかと妄想しています。

     他にもユニークなドーターボードがあるかもしれません。」

 

アリス 「このところ更新が途絶えていましたが、もちろんサボっていたわけではありません。

     ほとんど毎日チューニングに取り組んでいるんですが、やることが多すぎて少しの作業のつもりが
     やっているとすぐに夜中になってしまい、とても更新どころじゃなかったんです。

     AL3886FMCは重要なチューニングポイントが無数にあり指数関数的に選択肢が広がります。
     おまけに音質が千変万化するので最初は手におえない感が満載です。

     そこを仕上げるのがチューニングの腕の見せ所というわけですよ。
     わたしの場合は腕のなさを手数でカバーしているので大変になると。そういうわけです。

     おそらくこのアンプの正解は無数にあると思います。
     手がけた人によってまるで違う音に仕上がるのではないでしょうか。

     しかし、これほど大変だとは…」

 

アリス 「ところで連日連夜の頑張りの甲斐もあって本体基板のチューニングはほぼ完成しているとみてます。
     残すは多少の手直しだけだと思います。

     ところでですね、ひと段落したら後で書けばいいやと思っていたんですが、
     なんとチューニングの過程をかなり忘却してしまっていることにいま気が付きました。
     書き留めていないこともかなりあったので…すみません。

     というわけで、つたない記憶を頼りに思い出しながら書くことにします。

     それと、この項目を書き終わって、ケーシングを進めるころには
     頒布希望の受付を締め切って基板の製作に入ろうかと考えています。
     順調にいけば今月中には基板製作を始められると思いますので少々お待ちください。」

 

アリス 「つたない記憶がさらにあいまいになりそうなので急いで書かないといけません。

     最初にやったのはレギュレーターの換装です。
     1〜5号レギュレーターは特殊な仕様なので横濱アリス謹製のRegシリーズを最初から使ったんですが、
     5〜13号レギュレーターは初火入れの不具合要因を減らすためと手間がかからないので
     三端子レギュレーターICを使っていました。
     それを自家製のRegシリーズに換装します。

     とりあえず数が必要なので、LED.Reg、opeReg、miniReg2をかき集めます。
     少し足りなかったのでいくつか作ります。

     あり合わせ感がありますがこれで実験はできそうです。

     三端子レギュレーターICをソケットから引き抜いて、Regシリーズを挿しなおします。

     極性や電圧の設定に間違いがないことをじっくり確認して電源を入れます。
     …大丈夫ですね。無事に動きました。

     さぁ、音楽を聴いてみましょう。

 

     …

     ……

     ………

     …あぁ、これはいいです。

     これだけで素晴らしく進化しました。心地良さがまるで違います。
     音の表情が違いますね。想いがこもっていて気持ちよく聴き込めます。

     予想はしていましたが、やはり三端子レギュレーターICではこの基板の能力を引き出すには足りないようです。」

 

アリス 「さて、これからが大変です。
     レギュレーターのチューニングの幅は大変に広いので…

     どのレギュレーターをどこに使うのか、適材適所も見極めなくては。」

 

アリス 「レギュレーターの本格的なチューニングに取り掛かりました。
     どんどん良くなりますね。これはすごい。

     それに従って、組みあがり済みのレギュレーターの在庫がどんどん増えていきます。缶に入りきりません。
     やはり、レギュレーターの調整による音質変化の幅はとても広いです。

  

     仕上がるにつれてシステム全体の振る舞いも変化するので位相補償の再調整も繰り返しています。
     CSFのセッティングも大幅に変更しました。

     アナログアンプのチューニングは奥が深いですねー。」

 

アリス 「レギュレーターのチューニングが出てくるとアンプが安定してくるのでさらに追い込むことができます。

     レギュレーターにギリギリのチューニングをするときは、
     使用するトランジスターと突入電流の関係も細かく測定しなくてはなりません。 →こちらに参考記事

     何度も条件を変えてデータロガーでデータを取ります。

     あぁ、めんどくさい。

     それと、グランドパターンを適切に分離して各要素を充分にデカップリングすることも重要です。
     それを怠ると電源ラインやグランドから不適切な帰還がかかってしまってアンプが安定しなくなるのです。

     その点、AL3886FMCの配線パターンのアートワークはどうやらうまくいったようですね。
     よかった、工夫の甲斐がありました。」

 

アリス 「チューニングが決まり始めたAL38886FMCの音が大変良いのに気を良くしてまして、
     それで電源トランスに特注トランスを使いたいなと夢見てしまいました。

     いーなー、特注トランス。

     もう、響きがいいじゃないですか♪

     ところでトランスに関わることを少し考察してみましょう。」

 

アリス 「トランスというと 大きくて 重たくて 高価 です。そういうイメージです。

     トランスの大きさは電気的には ***VA というように決まっています。
     大電力を扱うにはとても大きなものが必要です。

     ところで、整流方式によってもトランスに必要な大きさが変わります。
     トランスの利用効率に違いがあるからです。

     AL3886FMCには正負両電源が必要です。
     正負両電源の整流方式には大きくわけてふたつ、ブリッジ整流とセンタータップ整流があります。

     ブリッジ整流のほうがトランスの利用効率が高くて小型のトランスが使えます。
     センタータップ整流はグランドの取り方に利点がありますが
     トランスの大きさが1.2倍くらいになってしまいます。

     ですが、今回は綿密な妄想分析の結果、
     一番お金がかかるやり方ですがセンタータップ整流で行くことにします。

     試作機の電源トランスにはトロイダル型を使っています。もちろん市販品です。
     特注トランスはRコア型を考えています。
     それぞれの特徴を考えてみましょう。」

 

     (トロイダルトランス)
      ・高級なイメージ
      ・小型軽量高効率
      ・瞬発力がある
      ・漏洩磁束が少ない
      ・入手が容易
      ・構造的に巻線を整然と巻くことが困難
      ・つまりメーカーによる巻線の状態の差が大きい
      ・1次2次間の静電シールドは不可能ではないが困難
      ・形状的に固有振動数が集束して機械的振動のQが高くなりやすい
      ・場合によってはそれが音の癖になるので固定方法には気を遣いたい

 

     (Rコアトランス)
      ・マニアックなイメージ
      ・比較的小型高効率
      ・オーバーロードに強い
      ・漏洩磁束が比較的少ない
      ・構造的に巻線の状態が良い(整然と巻かれていて、なおかつ円形)
      ・1次2次間の静電シールドの装備が容易
      ・小ロット生産に対応しているがそれなりに高価
      ・形状的に固有振動数が分散しやすく機械的振動のQが高くなりにくい
      ・コアをホルダーで直接固定しているため振動に強い

 

アリス 「このなかでも、わたしが特に重視しているのは巻線の状態です。
     マグネットワイヤーの巻き方でトランスの能力は大きく変わるので音への影響も大きいからです。

     静電シールドについてはどうなのか迷っています。

     微小信号を増幅するプリアンプなどにはACラインからのノイズを遮断するために必要になる場合がありますが
     パワーアンプには不可欠とまでは言えません。

     ただ、チューニングのばっちり決まったAL3886FMCの音は
     非常にローノイズ感を感じさせる繊細なものなのです。
     ここまでローノイズな音質だと、もしかして静電シールド有無の違いが出るんじゃないかと、
     そう妄想するんですよね。

     うーん…

     うーん…

     …

     …やっぱり決めた。頼むことにしよう、特注トランス。

     この際、徹底的にやってみましょう。何しろ目指すは最高峰です。」

 

アリス 「というわけで、ちょっと高いですけど特注トランスを発注することにします。

     じつは組み上げをご希望の方には特注トランスをと考えていたんですが、
     良い機会ですので共同購入を検討してみましょう。
     人数が多ければ価格も下がりますし。

     メーカーの人と仕様について検討したいと思います。

     既にAL3886FMCの頒布をお申込みの方には、後ほど共同購入のご案内メールをお送りします。
     お待ちください。

 

アリス 「しかし、そろそろケーシングを進めなければなりませんね。

     大変なんですよね、ケーシング。」

 

アリス 「頒布希望の受付の締め切りが決まりました。

     こちらをご確認ください。

     お申し込みの同好諸氏、お待たせ致しました。今月中に基板製作に入ります。」

 

アリス 「CADでケーシングのシミュレーションをしてみました。

     Rコアトランスにするとトロイダルとは配置が変わるので、その準備です。」

  

アリス 「タカチのHY133−28−23を想定しましたがギリギリですねー。

     スペースを節約するためにAL−SDFも壁面取り付けに変更します。

     もうケース買っちゃいましたから何とか詰め込まないと…

     上の図を左右反転させたレイアウトも載せておきます。

     なんとなく左右対称につくりたくなりますよね…。えっ?そんなことないって?」

  

アリス 「ただ、ちょっと余裕のないレイアウトですよね。

     無駄が無いとも言えますけど、拡張性や作業性を考えるとHY133−33−23のほうがおススメですねー。

     わたしはHY133−28−23をすでに買ってしまいましたけど…」

 

アリス 「組み上げ依頼をいただいているマッシーンはこんなレイアウトで考えています。

     バランス入力仕様で、ケースはタカチのHY133−33−23を想定しています。

     この仕様ではAL3886FMCの拡張ベイを温存するために
     バランスレシーバーをオンボードではなく単独で載せています。」

  

アリス 「良さそうなレイアウトですね!

     ムリもムダもない自然なレイアウトです。配線の取り回しも良いです。

     あ〜あ〜、やっぱりW33にしておけばよかったなぁ。」

 

アリス 「ケーシングを急ごうと思ったんですけど、
     トランスを特注品に替えることにしたので完成はもう少し後になりますね。」

 

アリス 「おかげさまでAL3886FMCの頒布希望の受付は無事に締め切ることができました。
     (その後、再募集しました。詳細はこちら

     特注トランスとあわせて間もなく発注の予定です。
     発注後3週間程度で出来上がる予定です。

     それまでは試作機を仕上げつつ、マニュアルや参考情報を追記しながら過ごすことにしましょう。

     しかし、そんなに時間の余裕はありません。
     油断しているとあっという間です。粛々と進めていきましょう。」

 

アリス 「頒布の希望者も出そろいましたところで基板の発注を行います。

     来月の中旬には完成予定ですのでしばしお待ちください。

     それまではさらにチューニングを向上させましょう。」

 

アリス 「基板をいじり始めるとホームページの更新の時間が無くなってしまいます。

     取ったり付けたり外したり挿したり、そしてそのたびに試聴したり……あぁ、ほんとに疲れました。

     これは設計とはまた違った疲れです。


     少し休もう。


     もうちょっとでパーツリストが固まりますから、もうちょっとだけ待ってくださいね。」

 

アリス 「お待たせしました。
     AL3886FMCの基板と特注専用トランスが出来上がりました。

     明日から順次発送していきます。
     もう少しだけお待ち下さい。

     さて、専用トランスを使ってチューニングをしましょうか。」

 

試作機 完成しました。 →試作日誌2へ


 

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