Alice In Underground (アリス・イン・アンダーグラウンド)

〜アリスの地下研究室〜

 


 

【 AL3886FMC : リニアーパワーアンプぜんぶのせ夢の(妄想の)てんこ盛りプロジェクト 】

アリス 「本格的なリニアーパワーアンプをつくってみたくなりました。
     わたし専用の研究室(地下室ですが)の開設祝いのプロジェクトにぴったりだと思うんですよ。
     D級アンプはトライパスDCアンプスペシャルでやっていますので、
     こんどはリニアーアンプに挑戦してみたいわけです。
     どうせやるなら妄想全開です。
     あ、もちろん用途はオーディオ用です。」

まとめ、やってみたいこと

     ・スピーカー駆動電流検出式電圧帰還制御(仮)
      『CSF(仮)カレントセンシングフィードバック(仮)実現したい
     ・本格的なオーディオ用リニアパワーアンプ
     ・電源周りをもりもり徹底強化
     ・グランド周りにも工夫を

アリス 「というわけで、みみずく先生からメモをもらってきました。」

(みみずくメモ)
     ・いろいろてんこ盛りで行くならICアンプのほうがいいかもね。
     ・ディスクリートアンプだと基板にまとめるのが大変だし、音が良い回路にするのはそれなりに大変。
     ・音響回路は定評のあるICを使って、他を思う存分やったほうが結果的に良いものになるのでは?
     ・リニアパワーアンプICならLM3886はおすすめ。旧いICだけど、音も良いし丈夫で壊れにくい。
     ・リニアアンプは発熱が大きいから対策をしっかりね。
     ・CSFはおもしろそうだな。D級アンプでは難しいけどリニアアンプならできると思う。がんばって。
     ・あ、そうだ、BTLよりもSEPPのほうがいいよ。ICの並列化(パラレル化)もやめたほうがいい。
     ・電源がしょぼい場合はBTLが有利だけど、電源が強力ならSEPPのほうが音が良いのだ。
     ・最大出力を欲張らずに単発ICで仕上げたほうがきっといい音になるよ。
     ・健闘を祈る。

アリス 「さて、頑張ってみましょう。
     まず実験のためにも基本的な仕様を決めてしまいましょう。」

  仕様
     ・SEPPアンプ
     ・単発IC
     ・ICはLM3886
     ・モノツイン

アリス 「細かいことは後回しにして、とりあえず動くものをつくってみることにします。
     どんな音がするんでしょう?」

 

〔その後、ある日のこと.1〕

アリス 「LM3886は定評のあるICで、ある意味使い古されたもののようです。
     作例や製品への採用例も多いようですね。
     人気?があるのもきっと優秀なICだからなんだろうな、と思います。

     それはさておき、さっそく実験回路を組み立ててみました。
     まずは動かして音を聴いてみたかったので最小限の構成です。

     ところで、リニアアンプってお金がかかるような気がします。
     大きな電源トランスの高いこと高いこと…、モノツインだと同じものが2つ必要ですし…
     あ、それはリニアアンプに限らないですね。
     限りある予算にはつらい価格です。」

  とりあえず仕様
     ・電源トランスはトロイダルトランス×2のモノツイン構成
     ・電源回路は整流と平滑のみの非安定電源
     ・DC結合(カップリングコンデンサーを使わない)

アリス 「それでは問題なく動きましたので、さっそく聴いてみましょう。

     …

     ……

     ………。

     ……うーん…、…なんて言うんでしょう?
     ただ鳴っているだけっていうんでしょうか? まるで魅力のない音です。
     特に問題のない音だとも思いますけど…、厚みがなくて平坦で無味無臭で…
     なんていうのか、もう一度聴きたいとは全く思えません。

     これも貴重な経験です。きっといい加減につくればこんなものなのでしょう。

     まだまだはじまったばかり。これからです。気を取り直していきましょう。
     当然といえば当然ですが、現段階ではトライパスDCアンプスペシャルに全く歯が立ちません。

     それと、電源電圧が高いせいか(±38Vくらい)ものすごく発熱します。
     それなりのヒートシンクを使ってますが、ちょっと音量を上げるとみるみる熱くなります。
     100℃くらいまでいきますね。もっと放熱を強化しなくては。
     これはD級アンプと大きく違うところですね。

     さぁ、ここからどのくらい良くできるのか闘志がみなぎりますねっ!と勇ましく独り言ちてみます。

     とはいうものの、工夫をかさねても結果に満足できなかったら悲しいけどボツですね。
     どうなるかちょっと不安。きっと何とかなるでしょう。」

 

〔その後、ある日のこと.2〕

アリス 「今回はどうしてもやってみたいことがあるのです。
     CSF:カレントセンシングフィードバックと呼んでいるものです。
     リニアアンプを選んだのも実はこれを実現したいという大きな目的があったからです。
     CSFというのは勝手にそう呼んでいるだけで、正式名称は知りません。
     以下に概念図をのせます。」

  

アリス 「通常のアンプはNFBという方法によって制御されています。
     NFBでは、スピーカーに出力される電圧波形を検出して
     入力の電圧波形と同じようになるように制御されています。
     これに対してCSFでは、スピーカーを駆動しているドライブ電流波形
     入力の電圧波形と同じようになるように制御されます。

     んで?それがいったい何なのさ?ということは置いといて、
     わたしはCSFはとても音が良いのではないかと、その可能性があると、ものすごく期待しています。
     何しろ動作原理が一般的なものとは違いますからね?音も違うはずです。
     わたしの妄想分析によると音質上のメリットもあるはずなんです(力説)。きっと。たぶん。

     あぁ、はやく聴きいてみたいです。

     考え方としてはCSFは特に新しいものではありません。
     同様の考え方のものは過去にいくつか製品化されたようですが、ほとんど普及してないようです。

     それについてわたしなりに理由を考えてみたんですが、
     汎用性が低くて扱いにくい、というのが大きいのではないかと思いました。」

     ・スピーカーへの出力電圧ではなくスピーカーのドライブ電流を直接制御するということは、
      アンプがスピーカーシステムのインピーダンス特性から非常に強く影響を受けるということ。
     ・インピーダンス特性はスピーカーシステムごとにまるで異なっている。
     ・そういったことでアンプとスピーカーの相性の問題もかなり起こりそう。(低域の問題とか)
     ・ヘタをしたらスピーカーごとに特化したチューニングの専用アンプが必要になる。
      (過去に実際に販売されていた商品はスピーカーとアンプがセットで専用品として売られていたそうです。)

アリス 「従来のNFBとチャレンジ要素のCSF。この両方の効果を自由に調整できるようなメカニズムを考えて、
     スピーカーシステムにあわせて簡単にチューニングできるようなアンプをつくりたい、というのが今回の野望です。
     スピーカーシステムに合わせた試行錯誤は必要でしょうけど、
     自作キットならそういった使いこなしは可能なはずです。
     何しろ自作ユーザーは自分で回路の調整ができますから。

     問題は音の良いものとして完成するかどうかなんですよね…」

 

〔その後、ある日のこと.3〕

アリス 「さて、今日は電源の強化をやってみましょう。
     電源の強化は音質改善の効果が出やすいのでとても楽しみです。
     この楽しさを、ぜひ多くの方にわかってもらいたいですねー。

     どのくらい良くなるでしょう?楽しみです。

     実験のために安定化電源として正負ともに定電圧レギュレーターのminiReg2を導入します。
     miniReg2を使う理由は組み立てが簡単なことと、制御方式をnon-NFBとNFBで切り替えられるからです。
     この実験にはぴったりですね。

     レギュレーターのパワートランジスターをどうするかということなんですが、
     音質への影響が大きいところだし、今回は出力も大きいしということで
     実験用にストックしていた2SA1451と2SC3709を使います。
     このトランジスター使いやすいんです。
     もし良い結果が出たらもっとトランジスターを吟味したいと思います。

     〜しばらくお待ちください〜

     というわけで、レギュレーターを組み立てて実装しました。
     ヒートシンクもしっかり取り付けました。
     いざ、試聴開始です。

     …

     ……

     ………。

     これはわかりやすいです。音、良くなりますね。
     LM3886はPSRR(パワーサプライリジェクションレシオ)が高くて
     安定化電源が不要だとデータシートに書かれているんですが、
     それでも、電源を安定化することは効果的ですね。

     ざわざわした感じがなくなりクリアーな音になります。
     非安定電源の時よりも音楽が楽しめます。
     へー、LM3886って音いいんですねえ。うれしい変化です。

     これは、もっと音が良くなりそうな予感がします。
     さらにがんばってみましょう。

     miniReg2のセッティングを変えてみると(正電源のみ)non-NFBよりもNFBのほうが音が良いように思います。
     今後のための貴重なデータです。

     ところで、LM3886はポップノイズが全く出ませんね。(※注)
     出力のDC漏れ(DCオフセット)が多いときはわかりませんが、
     今のところ電源ON、OFFを何度繰り返しても大丈夫です。
     トライパスではスピーカーが壊れるんじゃないかっていうくらいの破滅的なポップノイズが出ましたけど、
     それに比べるとこのICは優秀だと思います。
     これなら出力の遅延リレーは必要なさそうです。
     ※その後、実験を続けたところ条件によっては電源OFF時にわずかにポップノイズが出るようです。
      特に問題のないレベルだと思いますので特別な対策は講じません。

     それと、DC漏れは数mV〜10数mV程度なのでDCサーボも必要ないかな?と思っています。
     個体差はあると思いますし、DCオフセットによってスピーカーユニットの振動板の動作中点がずれることは確かなので、
     一応、DCサーボは付けておきましょうか。いらなければ使わなければいいだけですし。

     それにしてもLM3886、なかなか扱いやすいです。
     ちょっとかわいく思えてきました。

 

〔その後、ある日のこと.4〕

アリス 「CSF:カレントセンシングフィードバックの実験をそろそろやってみたいと思います。
     スピーカーをドライブしている電流をダイレクトに制御できるようになるはずです。

     これまでにいくつか妄想してきた回路があります。
     ついに試せるというわけなのです。
     うまく動いてくれますように。

     ところで、みみずく先生から追加のアドバイスをいただきました。」

(みみずくメモ)
     ・LM3886は入力インピーダンスがあんまり高くない。
     ・それと、信号源抵抗をある程度低めに使ったほうがS/N比が良くなるタイプの回路だよ。
     ・大出力アンプのほうがダイナミックレンジの最大値は稼ぎやすい。
     ・が、ノイズフロアーが上がってしまうので小音量時のS/N比は悪化する。
     ・増幅率を高めると帰還量は減るのでアンプの安定度は高まる。
     ・が、トランジェント特性が低下するので変化に追従できなくなることがある。
     ・増幅率を抑えると帰還量が増すのでトランジェント特性は向上する。
     ・が、位相の変化に敏感になり不安定になることがある。
     ・あとは頑張って考えてくれ。

アリス 「なるほど、つまり入力にバッファーアンプがあったほうがいいということですね。
     あと、ちょうどいいので増幅率関係の仕様をもう少し決めてしまいます。」

  仕様追加
     ・少なくともスピーカーインピーダンス4Ωで40W、6Ωで30W、8Ωで20Wの安定した平均出力を得る。
     ・増幅率は15〜20倍くらいにする。

アリス 「あと、仕様ではないんですけど、小さな音で使った時にもちゃんといい音で鳴るようにしたいです。
     ニアフィールドでの使用にも対応したいですし、わたし普段はワリと小さい音で聴いているので。
     もちろん8Ωで20Wの出力を完全に出し切ることができるようにするので爆音も可能です。
     ※可能なピーク出力は平均出力のおそよ倍くらいあります。」

 

〔その後、ある日のこと.5〕

アリス 「CSFの実験がやっと一通りできました。
     いろんな回路を考えたんですが、最終的にオペアンプを使った回路に落ち着きました。
     この回路は音質もよく、動作も安定しています。セッティング変更も容易なので今回の目的には最善だと思います。

     スピーカーを電流でコントロールする、と聞くとどんなイメージを持ちますか?
     わたしはパワフルでパンチのある音をイメージしていました。
     あ、ただのイメージですよ?

     実際はどうでしょうか。

     電流制御(CSF)は一般的な電圧制御(NFB)とは本質的に音が異なりました。
     なんというのでしょうか、中高域からウルサい感じが減って高解像度になります。
     低域はスピーカーによって異なりますが音圧が増すというよりもローが伸びる、という印象です。
     もちろん良いことばかりでもなくて、条件によっては動作が不安定になることもあるようなので、
     今後、実験を続けて完成度を上げたいですね。

     ひとまず今回の実験結果を載せておきます。
     実験用にスピーカーを3つ用意しました。どれも一癖あるものです。」

  (フルレンジバスレフ)
     ・CSFによってローエンドとハイエンドが伸びる。
     ・全体にピークやディップが落ち着く&高解像度になる。
     ・うるさくないのでニアフィールドでも音量を上げて気持ち良く聴けるようになる。
     ・小さな音でもこもらずに聴きやすく感じる
     ・NFB100%、NFB50%&CSF50%、CSF100% いずれも安定動作。
     ・CSF100%の音が良かった。

  (2Way密閉)
     ・もともと中域にクセがあり、低域も高域もあまり出ないスピーカー。
     ・CSFでクセがほんの少し落ち着いたような、ローとハイが伸びたような…
     ・総じて、ちょっと良くなったかな?という程度。大きくは変わらない。
     ・NFB100%、NFB50%&CSF50%では安定。
     ・CSF100%では帰還量を上げると不安定になることがあった。
      ※その後の実験↓で改善しました。

  (フルレンジバックロードホーン)
     ・低域にモコっとしたピーク、中域は箱鳴りでモヤモヤ、
      さらに高域が伸びないというダメなバックロードホーンの特徴が良く出ている残念なスピーカー。
     ・CSFで低域が締まりさらにローが伸びる。高域が伸びてキラキラした音に。
     ・箱鳴りがおさまり中高域が高解像度になって別物のような良い音に。
     ・小さな音も聴きやすくなる。
     ・NFB100%、NFB50%&CSF50%、CSF100% いずれも安定動作。
     ・NFB50%&CSF50%の音が良いと感じた。

アリス 「実験の結果、CSFは特にバックロードホーンに目覚ましい効果があるようです。バスレフとの相性もいいです。
     密閉箱での効果はそれほど感じませんでしたが、その後実験してみたところ、
     マルチウェイスピーカーに内蔵されているネットワーク回路の存在がネックのようです。
     ネットワーク回路は基本的に電圧制御を前提として設計されていますし、
     スピーカーユニットをアンプからダイレクトに駆動できなくなるのでCSFの効果が出にくいようですね。

     つまり、CSFの効果を最大化するためにはネットワーク回路を使わなくて済むように
     チャンネルディバイダー + バイアンプでの駆動が良いということになります。
     ……贅沢ですね。とてもお金が足りません……

       〜その後の実験〜

        B&W 802Dを用いた実験でCSFが思い通りに機能しないケースがあったので、
        解析と分析を行いました。
        その結果、CSFとネットワーク回路の干渉が起こっているのではないかと思われました。

        そこで最適化のために、CSF回路の再設計や各部のセッティング変更を行いました。

        再度実験したところ、ネットワーク回路を搭載したスピーカーであってもCSFによる
        電流制御の効果を充分に得ることが出来るようになりました。

        ネットワーク回路を使用していないスピーカでも音質の向上を確認できました。

        やはりCSFの最適化がポイントだったようです。

       〜ここまで〜

     CSFとNFBは根本的に音質が違うんですが、もうひとつ、音量による音質変化があります。
     CSFはNFBと比べて音量の大小による音質変化が小さいです。
     ちょうど、大音量でも小音量でも音質変化が少なく明瞭に聴こえるヘッドフォンのようなイメージです。
     地味ですがこれが一番新鮮に感じました。
     小さな音でもいい音で聴けるようにしたかったので、これはとても嬉しい成果です。

     それでは、今回の実験でCSFがかなり実用になることがわかったのでキット化を目論むことにします。
     わたしの持てるものを惜しみなくどんどん投入しようと思います。

     というわけで名前を決めました。

     AL3886FMC です。

     FMCはFull Material Custom(フル マテリアル カスタム:全部のせ)というイミです。

 

〔その後、ある日のこと.6〕

アリス 「今日は安全の確保について考えてみます。

     LM3886はとても優れたICで安全面でも優れています。
     過電圧保護、過電流保護、過熱保護、短絡保護などかなり充実しています。
     とても手厚い保護です。アンプが壊れる可能性はとても低いと思います。

     あとはスピーカーの保護です。

     LM3886はDCアンプなので、直流を入力すると増幅された直流が出力されます。
     増幅率を20倍にセッティングしている場合は、入力に1V入ると20Vになってスピーカーに出力されます。

     あまり大きな直流が流れ続けるとスピーカーが壊れることがあります。

     数十mV程度のDC漏れなら対策なしでもいいでしょう。
     数百mV程度ならDCサーボで充分に自動調整できます。
     でも10V、20VのDC出力となるとどうにもなりません。
     LM3886は元気に稼働しながら、確実にスピーカーを壊すでしょう。

     パワーアンプの上流にはCDプレーヤーやDAコンバーター、プリアンプなどがつながっています。
     その上流機器がDC漏れを起こした場合、
     LM3886がその直流を増幅してスピーカーを壊してしまうかもしれません。

     上流に市販品を使っている場合はまず心配ないと思います。

     でも、自作マニアならDAコンバーターやプリアンプに自作品を使うことは多いと思います。
     高音質のために実験的な機器を使うかもしれません。
     高音質を追及するために多少のDC漏れには目をつぶるかもしれません。

     上流機器の温度ドリフト程度ならAL3886FMCのDCサーボで抑え込めます。
     でも、故障を伴うようなDC漏れだと対処はまずムリです。

     もしかしたら、そういった上流機器にトラブルが起きて大きなDC漏れが発生するかもしれません。
     それでも、できればスピーカーを壊したくありませんよね?

     そして、数百万円のスピーカーシステムをお使いの方をわたしは知っています。
     なんてオソロシイ。

     というわけで、何かあった場合の最後のセーフティーとして、
     DC漏れの監視と緊急停止のメカニズムを組み込みたいと思います。
     最後の安全を確保してくれるので、システムで実験的なことに挑戦する場合には特に役に立つと思います。

     というか、わたしは欲しいです。
     トライパスの時もみみずく先生はつけてたし。

     しばらく使って問題が起こらないようなら解除できるようにもします。
     音質への影響が気になることもあるかもしれませんからね。
     ON、OFFしてみて聴き比べができるわけです。

     それで、具体的な方法なんですが、LM3886に装備されているMUTE端子を使用します。
     危険を感知したらMUTE端子を使って増幅動作を停止させるわけです。

     ゼロクロスディテクター回路を応用して、こんなDCリークアラート回路を考えてみました。」

  

アリス 「最初はディスクリートで組んでみたりいろいろやってみたんですが、
     誰がつくっても確実に動くということと、セッティングの変更が簡単なのでこの回路にしました。
     ローパスフィルターとスレッショルドの調整は簡単にできます。

     もちろん、こういうことは入力にカップリングコンデンサーを使えばいとも簡単に解決できます。
     (単純にアンプへのDC入力を防ぐためだけなら入力カップリングコンデンサーが、
      スピーカー出力からのDCリークを防ぐためなら出力カップリングコンデンサーが有効。)

     でも、そこはほら、安全を確保しつつDC直結でやってみたいじゃないですかぁ?」

 

〔その後、ある日のこと.7〕

アリス 「今回は電源システムをやろうと思っていたんですが、やっぱり次回にします。
     あんまり時間がなかったのと、DCリークアラート回路の実験を少し詰めていました。

     条件を変えて実験してみると思い通りに動作しないことがあったので…(ため息)

     いっそのことスピーカーとの接続をリレーやMOSFETスイッチで切り離すことも検討したのですが
     MUTE回路を使ったほうがLM3886とスピーカーを直結できるせいか
     音質的に良い感じなのでその方向で何とかしたいなと思いまして…

     今回は完全に自力でやろうと思っていたんですが、またみみずく先生のアドバイスを…
     保安回路ってけっこう難しいんですよー?

     ところでこの回路、通常はDCリークからスピーカーを保護する監視に使いますが
     他にもちょっとした応用技があります。

     ローパスフィルターのカットオフ周波数をいじることで、
     そうですね 「もし1kHz以下の信号がある程度出力された場合は緊急停止」 のようにすることもできます。

     それが何の役に立つのでしょう?

     例えば、ツイーターをフィルターなしのバイアンプで使っているときに低周波から保護することができます。

      プリアンプ → チャンネルディバイダー → パワーアンプ → ツイーター

     と、このように使っているときです。
     ここではチャンネルディバイダーで高域信号を取り出してツイーターをドライブしています。
     ツイーターは高域用のスピーカーユニットなので低い周波数を入力をすると壊れることがあります。
     もちろんDCが入力されても危ないです。
     チャンネルディバイダーのセッティングミスや故障など万が一のことを考えると、
     アンプとツイーターの間に直流と低域をカットするカップリングコンデンサーを入れたくなります。
     この場合、カップリングコンデンサーはハイパスフィルターとして働いてます。

     それがいちばん安全確実なやりかたです。

     でも、高域の音ってフィルターで劣化しやすいんですよね。個人的な経験ですが…
     DCだけでなく、もし、低域信号を感知してアンプが緊急停止できればこのフィルターを使わなくて済みます。

     まー、そのときにはDCサーボのサーボ周波数も一緒に再セッティングしたほうがさらに安全性が高まりますし、
     (その場合はACサーボ?ってことになるんでしょうか?)
     『ある程度、知識があるユーザー向け』ということにはなりますけど。

     そういう使いこなし方もあるということで…」

 

〔その後、ある日のこと.8〕

アリス 「次はいよいよ、音質への影響が最も大きい電源システムの仕様を考えたいと思います。

     アンプのメインIC:LM3886を重視するのはもちろんですが、
     AL3886FMCではメインICの動作を支える補機システムが命

     というわけで、補機類に暴挙ともいえるほどの電源マテリアルを投入します。こんな感じで。」

  

アリス 「こういう無茶って楽しいですねー。基板に載るのか心配ですが…

     レギュレーターをプライマリーレギュレーターとローカルレギュレーターの2段に分けているのは、
     リニアレギュレーター(シリーズレギュレーター)単段だと発熱が大きすぎるからです。
     今回は大電力を消費しますし、2段に分けて熱の分散をしたいなと。

     それと、整流リプルをプライマリーレギュレーターで除去して、
     精密な個別制御はローカルレギュレーターで行おうというねらいもあります。

     もちろん良い音のためです。きっと良いハズ。

     基板に入りきらなかったら一部省略するかも。
     DCリークアラート回路やDCサーボは簡易な電源でもよさそうですし。

     それにしても、これだけレギュレーターがあると音質のチューニングはおそろしく大変かと。
     チューニングが簡単になるような工夫もするつもりです。

     基板のアートワークめんどくさいなぁ…」

 

〔その後、ある日のこと.9〕

アリス 「回路がほぼ決まったので基板のアートワークにはいってます。

     いつも難しいです。アートワーク。
     わたしはオート配線CADを使わないで手入力CADでやっているのでなおさらです。
     本当にめんどくさい作業…

     放熱の良いタカチのHYケースになんとか全部入るようにしたいです。
     立派な良いケースですし。

     ところで、今回もグランドパターンの適切な分離をやりたいと思ってます。
     トライパスDCアンプスペシャルをつくったときに音質向上にとても効果があったので今回もやりたいんです。

     が、そのせいでアートワークが余計に大変なことになってます。

     あ、DCリークアラート回路とDCサーボのレギュレーターなんですが、
     電源の一部を音質に影響のある回路に流用することにしたので
     やっぱり簡易型ではなく、ちゃんとしたレギュレーターを使うことにします。
     電源電圧も±15V固定にします。」

 

〔その後、ある日のこと.10〕

アリス 「やっとアートワークができました。
     思ったとおり、とても大変でした。
     いま最後のデバッグとシルクの部品番号を決めています。

     デバッグはそれなりにめんどうです。
     わたしは紙に印刷して色鉛筆で回路を追いかけながらやります。

     今回は回路規模が大きくて、基板の中にパーツがなかなか収まりませんでした。
     回路のレイアウトってとても奥が深いですね。

     AL3886FMCの基板には最終的にレギュレーターが13基載ります。
     この数を頼んで贅沢にも要所要所に個別給電を行うわけです。
     圧倒的チカラワザですね。

     もちろん、やみくもに数を増やしたわけではなくて、ちゃんと考えがあってやっていますよ?ムフ。

     いろいろ考えたんですが、DCサーボのみON、OFFを切り替えられる仕様にしました。
     DCサーボはスピーカーによってONが良い場合と、OFFが良い場合があると思います。

     DCリークアラート回路は解除の必要はないと思います。
     非常時以外はほとんど動作しないようにしました。音への影響はとても少ないはず。
     それに、DCサーボをOFFにしてもDCリークアラート回路で最終的な安全を確保できます。

     そういうわけで最終的な仕様を決めました。

     デバッグが終わったら基板を試作に出そうと思います。」

 

〔その後、ある日のこと.11〕

アリス 「順調にデバッグ中です。細かいところの補正もしています。

     もうすぐ試作に出せるハズ。 

     仕様の決まったAL3886FMC全体の概略図です。」

  

アリス 「LM3886は入力インピーダンスを上げるために非反転で使います。
     これで入力バッファーアンプとあわせて低信号源インピーダンスでドライブできます。
     ねらいどおりならS/N比が良くなるはず。きっとなるハズ。

     入力はカップリングコンデンサーを使わずにDC結合としています。
     DCオフセット(スピーカー出力へのDC漏れ)が発生している場合は
     DCサーボを有効にして抑え込むことができます。
     不測の事態でDC漏れが大きくなった場合にはDCリークアラート回路が作動して非常停止します。

     ケーブルやヴォイスコイルの容量負荷による発振防止のためにパワーアンプの多くには
     アイソレーションコイルが装備されます。(ケーブルやスピーカーのヴォイスコイルは誘導負荷ですが、
     ここで問題になるのは寄生容量による容量負荷です。)
     帰還量の大きなアンプは容量負荷で不安定になることがあるので、それを防ぐためです。
     とくに大振幅発振が起こるとスピーカーを焼いてしまうこともあります。
     これはDCリークアラート回路では防ぐことができません。
     アイソレーションコイルはまともなメーカーの高帰還型パワーアンプにはほぼ必ず装備されます。
     (D級アンプはフィルターのインダクターがあるため不要。)
     今回は音質向上のために通常とは異なりアイソレーションコイルの後方からフィードバックをかけます。
     (通常は前方から)
     これで必要悪であるアイソレーションコイルの影響を大幅に減らせます。
     でも、そのままでは高域の帰還量が不足してしまいます。
     その補償は高周波帰還回路で行います。

     グランドの効果的な分離も実現できました。
     ちょっとトリッキーな方法で。

     これだけでもアンプとして充分に期待できるボリュームですが、さらに秘密兵器CSFモジュールも実装しました。
     合成回路でCSFとNFBの効果を自由にセッティングできます。
     スピーカにあわせたセッティング変更が簡単にできるのでとても期待しています。
     わくわくします。とってもわくわくします。

     そして、そして、これらの回路モジュールに効果的に個別給電を行います。

     あぁ、夢の個別給電♪
     思ったこと、ぜんぶ基板に入りましたよ。
     妄想が顕現して行くのは実に気分のいいことですねー。

     …おかげで基板の配線パターンは複雑怪奇になってしまいました。
     デバッグ大変ですってば。

     あ、レギュレーター13基のほかにパーツ総数は140個弱です。ステキでしょ?
     トライパスDCアンプスペシャルはパーツ総数200個を超えていたので、どうってことありませんよね?
     もちろんモノツインなので片チャンネル分ですけどね。

     組み上げるにはかなりのファイトが必要だと思います。

     まだ妄想段階なんですけど、アイソレーションコイルは高音質のお手製パーツを供給したいなと考えてます。
     インダクタンスもちゃんと測定して、左右精度の高いペアとかあるといいじゃないですか。」

 

〔その後、ある日のこと.12〕

アリス 「デバッグが完了しました!

     ついにアートワーク完成です。

     やったーーーーー!!!(祝)

     やっと気分が楽になりましたよ。

     実はアートワークが一番大変です。失敗できないし。
     今回もかなり骨が折れましたよ。

     さぁ、あとは予算と相談しながら工場に試作を発注するだけです。

     早く発注したいなー。」

 

〔その後、ある日のこと.13〕

アリス 「予算がないのに勢いで発注してしまいました。今月どうしよう…

     でもね、待てるもんじゃありませんよ。アートワークは完成してるんだし。きっとなんとかなるでしょう。

     試作基板は今月末には納品されるのではないかとワクワクです。

     今月はあと2週間もありますねー。ちょうどいいからダイエットでもしようかしらん…」

 

〔その後、ある日のこと.14〕

アリス 「AL3886FMCをパワーアンプに仕立てるときのケーシングを考えてみました。

     やっぱり、ちゃんとケーシングをしてはじめて完成ですからね。

     ケースはタカチのHY133-28-23を想定しました。

     重量のあるトロイダルトランスを中央に、周囲にACラインフィルター、整流平滑ボードを配置して
     AL3886FMCはサイドフィンに直接取り付けます。
     サイドフィンは剛性が高いので基板の取り付けには最適です。」

  

アリス 「配線の図示が適当ですがCADで作図しているので寸法の関係は正確なはずです。

     この図は左チャンネルのアンプを想定しました。
     各基板や部品の配置を入れ替えることで対称配置の右チャンネルのアンプをつくることもできます。

     図では電源トランスにトロイダル型を採用してますが、
     EIコア型、OIコア型、Rコア型などもそれぞれメリットがあって良いと思います。

     一応ですがステレオ2チャンネルを一つに収めたレイアウトも検討してみます。
     HY133−43−23を想定してます。」

  

アリス 「AL−SDFとUBR−2は2階建てで実装します。

     ACインレットと電源スイッチの配置に悩みそうです。

     ただ、せっかくのモノ構成をひとつのケースに収めると以下のようにメリットが失われます。」

      @個別単体ケースのように左右各チャンネルのアンプ間でグランド、アースを分離できなくなる。
       せっかく電源トランスを左右で分けているのにもったいない。
       グランドループノイズの影響も大きくなる。

      A左右チャンネル一体型のアンプは必然的に左右スピーカーの中央部に設置されることになる。
       そのため、大きな部屋では個別単体アンプのようにスピーカーの直近に設置できない場合がある。
       大電流が流れるスピーカーケーブルはリアクタンスの影響が大きく、
       その観点からは原則として短いほうがよい。

アリス 「というわけで、コストはかかりますが今回は個別単体のケーシングでつくることにします。」

 

〔その後、ある日のこと.15〕

アリス 「試作基板の到着に備えてイロイロ準備を進めています。少しずつですけどね。

     ひとまず暫定ですがパーツリストをつくってみました。

     試作後に定数を変更するかもしれません。」


  ※試作基板にあわせて正式なパーツリストができました  


アリス 「あれ?パーツ総数が140個を超えてますね?

     どうやら数え間違えていたようです。オホホ…

     CSFとNFBの動作強度をそれぞれ10段階で簡単に調整できるようになっています。
     CSFをOFFにして通常のNFBアンプとしても使うことができます。
     電源まわりが猛烈にもりもりと強化されているうえに、
     レギュレーターをminiReg2、opeReg、LED.Regなどのドーターボード型式としているので
     幅広く音質のチューニングと追い込みが可能で、後日のチューンナップも容易に行える構造です。
     他にも高音質化の工夫や各種安全装置を取り入れました。
     また、LM3886は例によってメーカー指定の(データシートの)使い方に従っていません。
     もちろん高音質化のためです。

     AL3886FMCはLM3886単発での最高峰、最高音質を狙いましたので、
     パラアンプやBTLよりも単発SEPPの音のほうが好みだ、
     という人にはまさに唯一無二のアンプとなることでしょう。
     電流制御(CSF)が可能という点も未知の可能性のあるユニークなポイントです。
     是非、システムの中で使いこなしてください。

     今回の基板は必要数量のみを製作する予定でいます。
     個人的事情で当分のあいだ在庫を持つのは難しいんです。
     試作完了後に製作頒布の希望を募りたいと思います。

     頒布形態は 『 基板 + 専用基礎パーツ 』 です。」

      (専用基礎パーツ内訳)
        ・電源用パワートランジスター
           音質への影響が大変大きく、設計の要求仕様を満たすためにも選定にはとても気を使います。
           もちろん、ぴったりのトランジスターを探しました。
        ・大電力抵抗
           ここも音質にとって重要なパーツです。
           とても高価ですが高音質、高性能、高信頼性が三拍子そろった
           無誘導巻線抵抗を思い切って投入します。
        ・アイソレーションコイル
           アンプ出力の高周波アイソレーター用のコイルです。
           空芯コイルは振動で巻線が動くことでリアクタンスが変動し、それが音のにじみやにごりになります。
           というわけで、音質を重視した振動対策を施したアリス謹製の高精度手巻き品です。

アリス 「そのほかのパーツは製作者自身の手で用意する必要があります。
     抵抗器は1/6Wか1/4W型で300mil以下の小型品がいいでしょう。
     400milサイズだと実装に困ることがあると思います。

     完成基板やケースも含めた完成品もある程度はできるかもしれません。

     また、これまでの経験から組み立て不備(部品の取り付けミス、はんだ付けのミスなど)に起因するもの、
     ほか、不具合のデバッグなどについては一切ノーサポートになります。
     複雑な回路なので組み立てミスがあるとトラブルシューティングは設計者であっても大変困難です。
     慎重に、ミスの全くない完璧な製作をする必要があります。
     ひとたび完成してしまえばそう簡単に壊れたりはしないので、ゆっくり確実に製作してください。

     基板の活用の仕方などについてはできる範囲で一緒に考えたりと、お応えすることはできると思います。

     それと、整流平滑基板としてUBR−2を新設計しました。
     AL3886FMCの仕様に合わせて細かく改良しました。
     UBR−1と比べると汎用性は低くなりますが、大電力で使えるようになっていることと(最大定格10A)
     無駄を省いてスペース効率が良くなっています。
     基板の外形やネジ穴の位置は変えずに互換性があるように作りました。」

 

〔その後、ある日のこと.16〕

アリス 「電源のトランジスターと大電力抵抗のほかにも今回の音質のキモになる小電力抵抗の選定ができました。
     いいのが見つかりましたよ♪

     他のパーツも続々と届き始めました。

     あと数日で基板も届くでしょう。

     出来上がりが楽しみです。」

 

〔その後、ある日のこと.17〕

アリス 「基板はまだなんですが、ケースが先に来てしまいました。」

  

アリス 「立派なケースですねぇ。
     ものすごく頑丈そうです。

     サイドフィンも分厚くてすごい剛性です。
     このサイドフィンにAL3886FMC本体基板をがっちりと固定します。」

  

アリス 「ちょっと時間があったので仮組をしてみました。
     組み立ては簡単にできました。

     大きいですね。片チャンネル分です。

     いや、リニアパワーアンプとしてはコンパクトなのでしょうか。」

  

 

〔その後、ある日のこと.18〕

アリス 「ついに試作基板が出来上がりましたっ!!!

     いっやー、長かったですよここまで。ホント。

     苦労して設計した基板を眺めるのは感慨があります。
     銅箔厚は通常の35μmよりも厚い70μmで製作したのでズシッと重みを感じます。
     設計上の最大定格は10Aです。

     2枚しかないので絶対に壊さないように気を付けないといけません。」

  

アリス 「金文字の銘入りです。」

  

アリス 「同時に頼んだUBR−2も出来上がりました。
     こちらも銅箔厚70μm、最大定格10Aです。」

  

 

〔その後、ある日のこと.19〕

アリス 「基板が出来上がってきたので、この続きは試作日誌で行います。」

 → AL3886FMC:試作日誌へ

 


 

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