【 Tripath トライパス TA2020-020 リビルド計画(AL2020FMCは完成するんでしょうか?)
】
アリス 「横濱アリス本気の作品として完成させた『トライパスTA2020初段直結化DCアンプスペシャル』は、
自作キットとは思えない良い音でした。
実験と設計がとても大変だったのを今でも覚えています。
自作キットとしては高コストですが、
市販品では決して得ることのできない魅力的な音質は今でも色あせていないですね。
頑張って作って良かった。
パワーアンプとしてはコンパクトに仕上がることも良い点ですね。
その後、リニアアンプの最高峰を目指してAL3886FMCをつくりました。
AL3886FMCは製作コストを度外視した物量設計で、
なおかつCSFという独自の実験的メカニズムを搭載しています。
さすがのトライパスDCアンプスペシャルも、AL3886FMCには高音質ポジションを譲ることになりました。
なにしろ、AL3886FMCは充分に手間暇かけてチューニングを施せば、
スピーカーでヘッドフォンと勝負できるほどに極めて高音質です。
でも、ですね。
AL3886FMCは必要コストが高いんです。とっても高い。
ある程度予算に余裕のある自作家でなければ完成が困難だと思います。
製作も手間がかかって、とてもとても面倒です。
わたしでさえ予算(と根性)が足りずに2セット目の製作が出来ずにいます。
そこで、トライパス(Tripath)なわけです。
コストと手間を抑えながらも高音質を求めるのであれば
D級アンプ(デジタルアンプ)はとても優れた選択肢だと思います。
TA2020−020は製造終了となったICチップですが、(会社自体が無い)
現在でも高音質を得るには充分な優位性があります。
手軽で扱いやすくなった最新型のチップよりも使いこなすには手間がかかりますが、
工夫の効果が出やすくて、期待できる到達点がとても高いです。
高音質化のための手法が使いやすいので、
チューニングのベースとして優れているんですね。
加えて製作コストを抑えやすいです。
・単電源設計なので電源コストを抑えやすい。(レギュレーターは正負両電源の半分)
・低電圧低電流部品を使える。(安くて高音質)
・低出力の電源で充分。(安い、小さい)
・放熱設計がほとんど必要ない。(ケースは安物でも何でもいい)
それと、これが重要なことですが、
これまでの経験を集約できる、ということがあります。
TA2020−020の実験はたくさんやっていますから。」
おかげで何十個も壊してしまいましたけど。
アリス 「とりあえず仕様としては以下のようなことを考えています。」
・初段DC直結化(DCアンプ化)
この機能は先代からの引継ぎですね。
これは、もはや外せません。
性能向上と扱いやすくしたいので改良します。
・バランス入力を装備
要望のあったことです。バランス、アンバランス両方使えるようにします。
・多段マルチ電源回路
高音質化の切り札ですね。
先代よりも数段高音質な電源システムにします。
チューニングもやり易いようにしたい。
・グランドの適切な分離
これも効果のあることです。
・MOS−FETリレーを使用可能に
スピーカー出力との接続用のリレー回路にMOS−FETを使えるようにします。
これも要望のあったことですね。
どちらにもメリットがあるので、機械式リレーと切り替えて使用できるようにします。
聴き比べもできます。
・保安回路
先代と同じく異常事態やポップノイズに備えます。
電源電圧監視回路
出力接続遅延回路
DC漏れ監視回路
緊急遮断システム
〔その後、ある日のこと.1〕
アリス 「つくろうと思うアンプの名前なんですが、AL2020FMCと呼ぶことにします。
FMCは
Full
Material
Custom
フル マテリアル カスタム=全部のせ、というイミです。
今回も妄想てんこ盛りでやりたいのでAL3886FMCの名前にあやかることにします。
無事、完成しますように。」
〔その後、ある日のこと.2〕
アリス 「さて、突然ですが出力フィルターについて考えましょう。
トライパス(Tripath)TA2020-020にはD級アンプの原理どおりに出力フィルターが必要です。
フィルターというと何らかのロスを目的としたもののように感じるかもしれませんが、
この場合は、むしろ積分復調器とでも呼んだほうが解り易いかもしれません。
D級のスイッチング波形を積分して電圧波形に復調するわけですね。(余計わからない?)
キャリアをスペクトラム分散するタイプのD級アンプでは出力フィルターは不要ですが、
何となくなんですが、フィルターが必要なタイプの方が音が良いような気がしています。
気のせいかもしれませんが。
実は、出力フィルターは基板のアートワークに大きな影響があるので先に決めてしまいたいんです。
フィルター回路は目的よって多くの種類があります。
最も有名なものはバターワース型ローパスフィルターでしょうか。
通過帯域内の周波数特性がフラットで特に欠点の無いフィルターです。
ほとんど何にでも使える万能フィルターですね。
バターワースもD級アンプの出力フィルターに使えます。
ベッセル型ローパスフィルターというものもあります。
ベッセルフィルターは通過帯域内の群遅延特性がフラットである、ということが最大の特徴です。
群遅延特性がフラットであると、複数の周波数を含む波形が歪みなく通過できます。
この特性はオーディオ用途としては利点があるものと思われます。
ただ、その代償としてキャリアの遮断特性は良くありません。
と、いうようにメリット・ディメリットはあります。
それで、結論としてはベッセルフィルターでいきます。」
アリス 「TA2020-020のデータシートにも奨励フィルターが記載されています。
このような回路ですね。カットオフ周波数は107kHzだそうです。」
アリス 「上の回路は市販パーツを使うために近似化されていると思われます。
ベッセルフィルターを8オームスピーカーに最適化すると実際には次のようになります。」
アリス 「他にもフィルターの設計は可能です。
ちょうどいい機会なのでいくつか載せておきます。
自作する人は参考にしてください。
以下はカットオフ周波数49.5kHzの2次のローパスフィルターです。」
アリス 「以下はカットオフ周波数33.6kHzの2次のローパスフィルターです。」
アリス 「以下はカットオフ周波数65kHzの4次のローパスフィルターです。
周波数がフラットな領域は107kHz2次LPFとほぼ同じで高域の減衰が急峻です。
キャリア(D級のスイッチング周波数)の除去能力は2次フィルターよりも格段に高いです。」
アリス 「さーて、どのような設計にしましょうか。」
〔その後、ある日のこと.3〕
アリス 「インダクター(コイル)のコアの磁気材料を何にするのか?という重要なことがあります。
余談になりますが、コアを使わずに空芯コイルでつくることも可能です。
低損失で高いQ値が可能、磁性体について廻るバルクハウゼン効果がないなど、ちょっと魅力を感じます。
でもですね、巻線が多いので銅損が増えますし、巻線の重ね合わせがまずいと
静電容量が増えてコイルとしての機能を損なうこともあります。
EMC性能がコイルの中では最も悪いことも問題です。
EMC性能が低いので大電力で使うと周囲に高強度の電磁波ノイズ(EMI)をまき散らして電磁環境を汚染します。
環境に影響を与えやすく、また受けやすいので、隣接するコイルと磁気結合してしまったり、
他のパーツと相互作用してしまったり、何かと困ったことも起こります。
かといって磁気シールドを使うと、磁気シールドがコア材として機能してしまうため、
もはや空芯コイルではなくなってしまいます。
と、いうわけでメリットよりもディメリットがあまりに多いのでわたしはD級アンプでは使いません。
話を戻すと、空芯じゃないならコアの形状と材質についてどうしようかなー、ということです。
まず形状はボビン巻き(ソレノイド型)とトロイダル型があります。
それぞれの特徴を考えてみましょう。」
ボビン型
・入手が容易で安価
・小型で実装面積が小さく済む
・コア材はフェライト系がほとんど
トロイダル型
・ピーク電流に強い
・EMC性能が高い
・コア材はフェライト系からダスト系まで幅広く入手できる
・手巻きで数値を細かく調整できる
アリス 「コア材については選択肢がとても多いです。
おおざっぱにいうと、ノイズフィルターなどでは高周波損失の大きなコアが向いていますが、
D級の出力フィルターには高周波(100MHzくらいまで)で損失の少ないコアが向いています。
せっかくなら出来る限りの高性能を目指したいので、低損失でなおかつ、
特に良好なリニアリティーを持つカーボニル鉄系のダストコアを使いたいところです。
カーボニル鉄ダストコアは加えられた磁界による透磁率の変化がとても少ないのでリニアリティーが良いのです。
また、初期透磁率の小さい磁性体ほど損失が少ないのですが、
巻線を増やさなければならないのでコイルが大型になります。
コイルが大型になると銅損が増えるので困ります。
そのあたりを考えるとマイクロメタル社、アミドン社、アメリカンコア社のトロイダルコアで
#2材、#6材がベストチョイスということになります。
トロイダル型で初期透磁率の小さなコイルは、フェライトのボビンタイプよりどうしても大型になりますが
今回も頑張って手巻きして作ることにしましょう。
ところで、トロイダルコイルのEMC性能はボビン型に磁気シールドを装備したものを上回ります。
トロイダル型は磁束のほとんどがコア内部を通り、コア外部には磁束はほとんど存在しないためです。
これは、コア外部の影響を受けにくく、なおかつ与えにくいということを意味しています。
また、このような事情からインダクターとしての振る舞いは素直で、
巻線の計算値と実際値が一致しやすく高精度のインダクターを得ることが容易です。
手巻きでも充分な精度が期待できることから自作には向いているインダクターだといえます。」
結論 : #2材、#6材のトロイダルコア
アリス 「以下、コイル製作に必要なAL値の一覧表です。」
コアのサイズ
|
外径
|
#2材のAL値
|
#6材のAL値
|
T68
|
17.5o
|
5.7
|
4.7
|
T80
|
20.2o
|
5.5
|
4.5
|
T94
|
23.9o
|
8.4
|
7.0
|
T106
|
26.9o
|
13.5
|
11.6
|
アリス 「コイルのインダクタンスは、巻線のターン数をTとして以下の式で計算できます。
ターン数とはコアの穴を通り抜ける回数で数えます。」
インダクタンス(μH)= T^2 × AL ÷ 1000 (※T^2はTの自乗、T×Tの意味)
アリス 「例えば、先代のトライパスTA2020初段直結化DCアンプスペシャルではT68−2に42ターン巻きました。
そのインダクタンスは、
42^2 × 5.7 ÷ 1000 ≒ 10.05μH
となります。Q値は200以上ありましたので大変優秀なコイルだといえます。
T68サイズは入手性も良くて使いやすいですね。ご参考に。」
〔その後、ある日のこと.4〕
アリス 「実験と基本設計を進めているんですが、仕様が二転三転しています。
いまのところ、TA2020-020の能力を最高度に引き出すために、
7つの電源を個別に供給したいと考えています。
しかし、電源システムが複雑になることと併せて
安全確保のための保安回路との兼ね合いなどで設計が手に負えない状態になってしまいました。
回路図だけでも、めまいがするほどの規模です。
ちょっと、このままではラチがあかない状態だったのですが、
幸いにして、個人的に関わりのある横濱音羽製作所の本格的な協力を得られることになりました。
これで、これまでよりも更に完成度の高いものを目指すことができます。
そういうわけで、ここ最近はコンセプトの練り直しと、
新たな回路設計のための基礎実験を夜な夜な繰り返していました。
限界試験ではTA2020-020を10個ちょっと燃やしました。
(もったいないですが仕方がありません。)
おかげで、いままで解らなかったTA2020-020の内部構造もかなり判明しました。
それで最終的には、過度な複雑さを避けながらも、安全性と高いクオリティーを両立する目処が立ちました。
この最大の成果はスピーカー出力のリレースイッチ(機械式もしくはMOS−FET式)を廃止できたことです。
もちろん、DCリーク時の緊急停止やポップノイズ対策も盛り込み済みです。
AL3886FMCでは出力リレーを使わないで安全確保を行いました。
アンプの出力とスピーカーの間にリレーが入らないのはいい感じでしたし、
リレーの駆動回路などがあると回路規模が複雑になりすぎるので、
出来ればトライパスでも出力リレーは廃止したいと思っていました。
何度か出てきていますが、AL2020FMCは入出力直結のDCアンプです。
ですので、上流機器の事故時にはAL2020FMCに異常がなくても、
スピーカーに大量の直流電流を出力してしまう危険があります。
これに備えなくてはなりません。
特にDCリーク時の緊急停止については、いいアイディアが無くて悩んでいたのですが、
実験中に得られた新たなデータとアイディアにより可能になりました。
良かった良かった。
さぁ、頑張って設計を進めましょう。」
以下、工事中。つづく。